2009年1月10日

犯人に告ぐ

犯人に告ぐ〈上〉 (双葉文庫) 「犯人に告ぐ」上・下
雫井脩介
双葉文庫
初めて読む作者だったがあとがきを見ると面白そうだったので読んでみた。
最近あまり面白い本にあっていないので期待していなかったのだがとても面白かった。

神奈川県警の警視、巻島史彦は娘に子供が生まれそうだというので落ち着かないそんな非番の日に、幼児誘拐の一報が入る。駆けつけた巻島は「ワシ」と名乗る犯人に翻弄された挙句に、目前で逃げられ幼児は殺害される。(この犯人と接触する場面はぞくぞくするようなスリルがある)そして足柄署に左遷される。6年後、又幼児の連続誘拐殺人事件が発生し、以前の誘拐事件の折に上司であった曽根に呼び戻される。
そこで事件解決の方法としてメディアを利用する案が出る。「ニュースナイトアイズ」のキャスターに脅迫状が来たこともあって巻島が出演して、犯人と視聴者に呼びかけることになる。「劇場型捜査」という形は以前にも採用されたこともあり行き詰った捜査解決の糸口になると考えたのだった。巻島には胸の奥に重石のように固まっている思いがある。マイクに向かって「バッドマン」と名乗る犯人に呼びかける
「連絡を待っています」
偽情報など手がかりに繋がらない多くの情報が届く中で、焦る巻島の下についにメッセージが届く。だが巧妙な犯人に行き着くことは難しかった。
一方、情報合戦の最中、ライバル局でも同じ事件を追う企画が進行中であった。そこになぜか情報が漏れている、巻島は奇策を弄して警察内部の犯人をあぶりだすことにする。(このところもスリリングで非常に面白い)
巻島の犯人に対する呼びかけにも、解決に繋がる目立った進展がなく、その上呼びかけの内容に犯人擁護のニュアンスがあるということで、巻島バッシングが広がっていく。視聴率を重視する局側は巻島の事件報道を打ち切ること考え、巻島の出番もなくなるという。最後に賭けた巻島は犯人に呼びかける
「犯人に告ぐ」

幼児誘拐、警察機構、人間関係など多様な要素が絡まってとても面白い話になっている。久しぶりに上下巻を一気に読んでしまった。
ただ、欲張って言うなら、最初に遭遇した誘拐犯「ワシ」は、巻島にとって大きな試練だった。誘拐事件をまんまと成功させた「ワシ」は巻島のトラウマである。この「ワシ」との関係をもう少し練ってほしかった。
又ふとしたきっかけで最後の犯人に繋がっていくその流れがそれまで捜査に難渋したことに比べてあっけなく少しもの足りない面もある。
そうは言っても、巻島を初め人物それぞれのキャラクターや、背景になっている組織や機構、家庭環境などは非常に重く、人間関係もリアルで深い。サラリーマンの悲哀も現実と通じるものがある。巻島の中で組織にもまれて歪んで行く正義感と自己との葛藤も見逃がせない。公開されている映画の配役では、巻島は豊川悦司になっている。イメージとして、作中で「ヤングマン」と呼ばれる毛色の変わった刑事役には合っているのではないだろうか。

蜘蛛の巣のなかへ

蜘蛛の巣のなかへ (文春文庫) 「蜘蛛の巣のなかへ」
トマス・H・クック
文春文庫
もう一冊読んだ。今度はどうだろうと期待してまた面白かった。
読みたい本があって本屋にいったが4軒回っても見つからなかった。最後の本屋でこの本を見つけたので、
マァいいかなと喜んで読み始めたがあっという間に終わってしまった。面白い本はあまり早く終わると損をした気分になる。

父の最後を看取るためにカリフォルニアから20数年ぶりに帰ってきたロイ。若い頃には逃げ出すことばかり考えていた故郷の、
ウェスト・ヴァージニア州キンダム郡は谷間にある貧しい炭鉱の町で小さい池や村落が点在し、川が一筋、
無舗装の道路が走っている取り残されたような場所であった、東北にあるウェイロードは電気もない、
より貧しい地域でロイの父はここの出身なのを恥じていた。
母も弟も亡くなってしまって、肝臓癌で余命いくばくもない父を看取るのはロイだけになってしまっていたし、
いくらお互いの間には憎しみの心だけしかなかったとしても帰らないわけにはいかなかった。
もう二度と戻るまいと思って出た故郷の暑い夏の日、ロイは否応なしに、
心から締め出していたはずの過去に絡め取られていく、
まるで暗い貧しい谷間に張られた蜘蛛の巣に絡まるように。
一番深い心の傷となっている弟の死、無邪気で純真で明るく輝いていた弟がガールフレンドの両親
を射殺して留置場で縊死した。母親はそれを苦に病死してしまった。
ロイにも結婚を決意した美しいガールフレンドのライラががいて、この二組のカップルは事件の前にも一緒に居た。
そんなこともあってロイにも一時疑いはかかっていたが、カリフォルニアの大学に入ったロイの所にライラから突然、
結婚は出来ないと手紙が来て、ロイは将来の夢とともにすべてを忘れることにしてしまった。
帰ってきて、偶然川で死んだ男とかかわり、近所に住むライラの母から父の過去にまつわる話しを聞いた。
父の育った部落に行って話を聞いているうちに、若い頃の父親が次第に見えるようになる。
寡黙で気難しく、母との結婚も家庭も不幸であり、不運を背負った人生は家族にまで及び家庭は崩壊していた。
そんな父は、若い頃の話を心の奥にしまいこみ家族には決して話そうとしなかった。
ロイはその過去に踏み込むことになり、父の深い暗い過去と対面する。
父の救われない闇の中には、今引退して息子に譲ってはいるが元保安官の陰がちらついていた。
独裁的な保安官はその権力を利用して弟に不審な行動を取らせたのではないか。
ロイは初めて、捜査記録を調べことの真相を明らかにしようと思いたつ。
犯人は果たして本当に弟だったのだろうか、ライラはなぜ急に約束を違えてしまったのだろうか。
父の保安官に対する憎悪の根源は。
謎が解き明かされるにつれ今まで憎しみと蔑みだけしか感じることの出来なかった父のかたくなな心が、
すこしずつ理解できるようになる。

謎解きも面白いが。クック独特の登場人物のもつ悲しい運命が心に残る。
随所に見られるミステリーらしい仄めかしは情感の豊かな風景や心情の描写の中ではあまり露骨でなく、
半ばで結末を予想して裏切られるちょっとした作為も、ファンなので気にしない。

点と線

点と線 (新潮文庫) 「点と線」
松本清張
新潮文庫
昔読んだ「点と線」、有名な東京駅の4分間の見通し。一体どんな話だったのだろう。
書店のサマーフェアで並んでいたので読み直してみるのもいいかなと思った。
博多の志賀島には数年前に行ったがそこが舞台だったのかと感慨も深かった。

志賀島の手前で発見された心中死体、料亭で働くお時と、汚職事件で摘発された政府役人、課長補佐の佐山。
心中というには少し不審な点が感じられた、東京駅で目撃された二人連れなら食堂車の
領収書が「お一人様」となっていたのはなぜだろう。佐山は一人で旅館に泊まり、5日後に女性の電話で出かけてそのまま死んだ。
二人連れを見かけた人は女性が「ずいぶん寂しいところね」と言っていたという。
古参の鳥飼刑事は状況を確かめようと足で調べ始める。
東京から知能犯捜査係り警視庁捜査二課の三原警部補がやってくるが、古参刑事の勘と執念も生きている。
そして、この事件は三原警部補の捜査に移る。
三原は4分間の目撃者について調べを進める。あまりにこの偶然の出来事は出来すぎではないか。
しかし事件当日の目撃者安田は、北海道にいたという鉄壁のアリバイがあった。しかし病弱な安田の妻の随筆から彼女は
「時刻表」の愛読者であることが明らかになり、疑惑が深まっていく。

もうすっかり忘れていたストーリーも、読み進むにつれてところどころ思い出され、事件の解明が進むにつれて充分に楽しんだ。

時刻表を見て旅に出た気分になっていた若い頃には、時刻表で旅行の計画を立てて、わずかな時間で乗り継ぎをしたり、
朝着いた知らない駅で顔を洗ってバスを待ったこともある。そんな私たちの世代には懐かしい作品だろう、新幹線が走って、
手軽なパック旅行が手に入るこのごろ、この本もいつか昔話になってしまうのだろうか。

沈まぬ太陽 (アフリカ篇 上下 ・御巣鷹山篇 ・会長室篇 上下)

沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫) 「沈まぬ太陽」
山崎豊子
新潮文庫
2000年のベストセラーで話題の書。当時は重い本を読む気持ちの余裕がなかったので今ごろやっと読み終えた。

アフリカ篇

自分の意思ではなく引き受けた労組の委員長として、御用組合から従業員の組合に、
本来の機能を取り戻すために心血を注ぐ主人公(恩地元)の話。
経営者にはアカと呼ばれながら従業員の労働条件向上のために戦う。
現、日航という組織をあからさまにならない程度に語るがその実態は容易に想像できる。
主人公も実在の人物であると明記、真に迫っている。
任期が満了すると即座に生活条件の劣悪な地に人事異動になる。これは会社の不利になる組合活動を指揮した
との報復人事で、内規を無視した一方的な左遷であった。イランからケニア、ナイロビでの人種差別にも耐えていく。
家族を巻き込んで孤独な海外生活の十年、組織の持つ黒い体質にたえて信念に生きるエリート社員の姿が感動的。

刊行当時週刊誌を賑わしたように、さまざまな面で反響を読んだことも納得がいく、組織のあり方や政治の世界は
今もって何一つ変わっていない、より劣化していると思われる点が多々ある。
冷静に見ればそうまでしてなぜ長い年月を絶えたのかという気もするが社会的な自己責任のとり方は個々に違う。
主人公の姿勢は人道的に崇高なものである。

少しで社会参加をしてみれば、人の持つ悪しき面は尋常ではない。
今のようにバブルの崩壊でリストラの波が荒れ、倒産も多い、その時の自己保身の有様は目を覆いたくなる現実がある。
いかに生き抜いていくか、それは人の尊厳を超えた戦いのようである。

御巣鷹山篇

本社に復帰をしたとはいえ、冷たい閑職に甘んじていた時事故がおきる。墜落現場に赴き事故の処理に当たるが、
悲惨な現実の前に遺族の慟哭が聞こえる。死を目前にして家族に遺書を残した人のニュースは
実際に新聞で報道され記憶に焼きついている、生き残った4人を除く520名の犠牲者を前に、
関係者の苦悩の捜索活動が語られている。
そして遺族係として補償問題に直面し、より深く事故その後に関わり、真摯に解決を望むが、
ここでも会社の無責任な対応に直面する。遺族の悲劇を身をもって知ることになる。
事故原因の解明においても、あくまでも利益重視の姿勢、体面にこだわる会社という組織の汚れは正されないでいる。

会長室篇

政府も黙認できず会社組織の建て直しのため人事が一新される。旧労に対して御用組合を建て、
巻き返しを図った会社の杜撰な経営姿勢が事故を起こした引き金であると糾弾され、
新しく会長として以前労使問題を解決した実績のある関西の紡績会社の会長を迎える。
三顧の礼を持って迎えたいという熱意にほだされて引き受けた会長のところに、
恩地は新設された会長室の部長となって参加する。
ここでも官民癒着の実態は生々しい。次第に独自の解決策は踏みにじられ、
都合の悪い会長室は政府と経営者の思惑でつぶされることになる。
しかし人の足としての航空機事業は儲かるのだ。金は販売促進費という名目で闇に流れ、
莫大な金額が個人に入る仕組みは庶民には思いも及ばない。
国民航空という作品上の名前が表すように政府が介入する経営には、国家の金も使われる。
そんな世界を変えることは小さな個人の力は無力であるということか。
犠牲になった社員が書き残した贈収賄の証拠資料をもとに東京地検特捜部の査察が入ったことも恩地には遠い出来事になる。
人事異動で再びアフリカに赴いていく。

恩地元のモデルになった小倉貫太郎氏は昨年10月9日京都で亡くなられた。

半落ち

半落ち (講談社文庫) 「半落ち」
横山秀夫
講談社
家事の合間を縫って三日間読み耽った。最近の収穫、五つ星。
山に行った後疲れて風邪気味、微熱も出たのでこれ幸いと買ってあった本を読むことにした。

アルツハイマーの進行を苦にした妻を扼殺して自首してきたのは、温厚篤実という評判の「梶警部」だった。
嘱託殺人の罪にあたる。
だが状況や動機については話すが犯行時から自首までの2日間については黙秘を続けている。
ここまでの段階でもう十分事件は成立する。だが取り調べ官は納得できない。これでは「半落ち」でしかない。
納得できる話を捏造して解決することで体面を保つべきか。
二日間の行動を話さないことに固執する梶の真意は何か。
警察、特種を狙う記者、弁護士、検事、それぞれの属する機構同士の軋轢、内部の人間関係のもつれなど、
この事件をめぐって、日ごろ知ることの出来ない公の機関の中に踏み込んだストーリーは作者が新聞記者だった為に
緊迫感がある。
組織社会の中で生きることの疑問や矛盾を、立場を変えてそれぞれの登場人物に語らせているが、説得力に富んで重たい。

一人一人の仕事がらみのエピソードは興味深いが、私生活で話される出来事があまりこの事件と絡み合う展開がない。
最後に判明する感動的な結末に、胸迫るものがあるが、果たして二日間の空白を埋めるだけのものなのか、
妻を殺したことに比べどれほどの重みがあるか少し疑問。人それぞれで非常に人間的な大きな課題かもしれないが
梶が守ろうとしたものがそれなのかという疑問が残る。

しかしよく出来た話で「マークスの山」「理由」を読んで以来の収穫だった。

図書館の死体

図書館の死体 (ハヤカワ・ミステリ文庫) 「図書館の死体」
DO ANTO OTHERS
ジェフ・アボット
ハヤカワ文庫
砂糖耕士訳
愉快なミステリーを読んだ。まず真相究明に走り回る若者がいい。
この主人公、都会の仕事を諦めてアルツハイマーの母親のために帰郷して市の図書館の館長になった、
気が優しく明るいそのうえなかなかのハンサムでもてもである。
カンサス州ミラボーの町は片田舎でちょっと人間関係も複雑といえば複雑、お互いに知りすぎた弊害もある。
が何処にでもある変化のないところだった、そこで殺人事件が起こって大騒ぎ、場所は図書館の中、
殺されたのは悪書追放に熱心なキリスト信者だった。文学書でも猥褻本と決め付け乗り込んでくる熱意、
気迫に辟易していたところついに言い争いが昂じて本で殴られてしまう。
運悪く、そのとき道で拾ったバットを書架の隅に保管していた。ということで犯人にされそうになる。
その上、殺された彼女の持ち物の中から見つかった紙切れ(聖書からの引用文のついた罪深い人リスト)
に自分と母親の名前が書いてあったから大変。
真犯人は誰だ。彼は前向きに非常に楽観的明るい捜査を始める。何しろ元気、快活、ユーモアもあるめげない人柄。
もう、降ってわいた災難だ、彼は考える。

 普通ミラボーのが女達は死ぬのは、何らかの病気にかかったり、天寿をまっとう した身体が永遠の休息を求めたり、
ビール瓶にひそむ小さな死を積み重ね過ぎたり、車を運転していて注意散漫だったりする場合だ。
もしかすると、長年連れ添った夫が冷たい土の下の人となって、ひとり残された孤独に耐えきれなかったり、
母さんのように脳の働きが衰え、記憶という生命のなかでも最も神秘的 かつ神聖なものが消滅するばかりか、
呼吸や鼓動を促すものが一切なくなってしまう場合だってあるだろう。けれども、頭を殴られて死んだりしない。

ということだと。
また、通っていた教会の牧師の妻にも会ってみよう、しかし

 二人が親友同士だったとは思えない。同じ教会の信者、同じ神の信奉者である以上、同盟者であったかもしれないが、
友人とはいえなかったはずだ。他人を裁く力を持つことを誇る人間は、あまり人とは仲良くしない。
心から愛情をあらわすことなく、相手の人間的弱さがあらわれるを待っているものだ。

彼を犯人だと思うのはこの機にちょっと手柄を立てたい警察所長くらいだが、わからない事が多い中で、
皆がそれぞれ違う人を犯人だと思うようになる。独り独りの思惑に振り回され、田舎の気の良い人たちばかりだが、
それでも何かありそうな雰囲気が巧みに織り込まれ、綿密な構成ながら、次第に糸がほぐれて、感動的な結末になる。
随所に見られる気の利いた表現やせりふは面白く、ときどきはククッと笑い出しながらもジンと来る、
これはジョーダン・ポティートという主人公がいい、ミラボーという町も昔懐かしい感じがする。
ちょっと時間が有るし、といって面倒なことをやる気も出ないしという時にはうってつけ、息抜きの一冊。

楽園の涙

楽園の涙〈上〉 (扶桑社ミステリー) 「楽園の涙」
BLOOD AND ORCHIDS
ノーマン・カタコフ
扶桑社ミステリー
松本みどり訳
<まず参考に>これはまだハワイが準州であった頃、1931年に起きた「アラモアナ事件」
をベースにしたベストセラー小説だそうだ。
あとでこの本はどこにもないかも知れないと思い検索したら、沢山紹介されていて驚いた。↓参照
http://www.asahi-net.or.jp/~rf2s-asm/bookshelf/bkdt63.htm
ハワイに行く人は多く、ご多分に漏れず私も一度だけ観光に行ったことがある。その時訪れたアリゾナ、
メモリアルが衝撃的でその記憶から読んでみた。
               *  *  *
まだ有色人種の差別が顕著な時代、白人支配の中で事件が起こる。
ぼろくずのようになるまで殴打され路上に放置されていた女性が病院に運び込まれる。
白人であり海軍のエリート夫人でその上地元の有力者の娘ということでこの殴打事件は、
被害者を見つけ手当てをするために運んできた地元の若者達が、この夫人をレイプしたということになる。
被害者も母親の強い勧めに逆らえず、レイプされたのだと証言する。
その時は病的に興奮し殴打するような不倫相手でも守らないといけないと思いつめてもいた。
貧しい中から有力者の妻に成りあがった娘の母親は、事件を偽装して世間体を守ることに命をかける、
夫も、廻りの人々も真実よりも地位・階級、自尊心を守るためには無実の若者たちを犠牲にしてはばからない。
一審はかろうじて評決の不一致で若者達は保釈されたが、それを不服とした夫と仲間によって若者の一人が殺害され、
白人と有色人種(日本人も含まれる)、支配者と被支配者という事件外の要素に汚染された不当な法廷争いは、
本国の合衆国も巻き込んでの大事件になる。
小説なのでレイプ犯(にされた)の幼馴染の若い弁護士とその恋人、好意的な判事、
その後殺人犯として逮捕された白人側の老獪な弁護士などの活躍もある。(この人は実在、回顧録があるという)
なぜか地元の警部のロマンスもある。作者の意図的な読者サービス。
ミステリーながら、ジャーナリスト出身の作者らしい社会性の濃い作品。
結末を知らなければ幸せに乾杯したいところだが、最後のところは事実とはあまりにも遠いそうだ。
ハワイに関心のある時には読んでみるのがいいし、ただ楽しみだけだとしても面白い。
事実に基づいたお楽しみミステリー。

証拠排除

証拠排除〈上〉 (扶桑社ミステリー) 「証拠排除」
Motion to Suppress
ペリー・オショーネシー
扶桑社ミステリー
富永和子訳
もう一冊読んだ。今度はどうだろうと期待してまた面白かった。
とても面白かったので紹介。作者は二人の姉妹で姉はハーバードの法学院の出身。
そのせいか法廷場面のやり取りも、弁護側検察側共に心理戦の描写が行き届いて面白い。

夫婦の溝が深まった為にふとした過ちで離婚ということになってしまった。
どうも夫はそれを喜んでいる節があり、やりきれないことに多少未練はあるが元には戻れない。
そこで兄のいるカリフォルニアの景勝地タホの町でそれも衝動的に空き部屋を見つけ開業することになる。
そんな家庭の危機を乗り越えようとしている女性弁護士が主人公。

完璧なまでに美しく不幸な女性の依頼人がやってくる。その無実を証明しようとするのだが、
彼女は耐え切れない苦しみを抑圧する為に、記憶をなくすという障害を持っている。
そのために夫殺しの顛末も記憶から消してしまっていた。
そこで、精神科医の睡眠療法で自白したかのような一言は、証拠として採用されるのだろうか、
彼女の障害の原因となった過去の出来事には何が隠されているのだろうか。ということになる。
切羽詰った弁護は、多彩な登場人物の描写のうまさもあいまって真に迫って実に面白い。
乱れのないところがこの話の出来のよさで最後まで飽きない。
ただ怒涛のような終盤にあっけなさもあるが、落ちは心温まる仕掛けになっている。

グランド・アヴェニュー

グランド・アヴェニュー (文春文庫) 「グランド・アヴェニュー」
GRAND AVANUE
ジョイ・フィールディング
文春文庫
久しぶりに紹介、沢山読んだがこれといって印象に残るミステリは少なかった
その中でまずまず面白かった。ジョイ・フィールディングは三冊目。
グランド・アヴェニューに沿って住んでいる4組の親子の話。
突き当たりの公園で、小さい子供を遊ばせていて知り合った家族のその後、今で言う公園デヴューして出合ったと母と子。
それぞれの母親は全く違った個性をもっていながら、深く結びつく。そして25年、自分で作り出したかのような不幸、
降りかかってきた不幸、形の違う人生を歩んでいく中で、現代が色濃くこまやかに映し出され、
女性の作家らしい気配りが見える。
美容整形で若さを保ちたいという執念を持つ人。大学で学びなおして社会参加をする人、
弁護士のキャリアに満足できない人、夫の暴力にさらされておびえている人、
満たされない思いがやがて大きな悲劇となる。娘達に母親は何をしたか。
25年後を4人揃って見る事は出来なかった。死の謎は母と娘のその後の人生でもある。

夜の記憶

夜の記憶 (文春文庫) 「夜の記憶」
INSTRUMENTS OF NIGHT
トマス・H・クック
村松 潔訳
文春文庫
いつでも自殺できる用意をして暮らしている、ミステリ作家ポールの記憶。
13歳の時の悲惨な体験が書くことの核になってしまっている。
そこにまことに奇妙な依頼がくる。50年も前に殺された少女の事件を推理してほしいと言うのだ。
かってはその土地の富豪であった家の女主人に招かれ、同時に来ていた劇作家の女性とともに考え始める。
世捨て人の様な暮らしから出て行くつもりもなく、あまり気乗りはしなかったのだが、
その女性に引かれて次第にのめりこんでいく。
ここにも理不尽に殺された無垢な少女がいて、みんなから愛されていただけにその死は不可解であった。
同時進行する物語がある。ポールの小説のシリーズに登場する刑事と殺人鬼も分身のように加わってくる。
その想像力で謎を解いてほしいと、望まれただけあって、周りの人たちに会えばみんな動機を持っているように思われ怪しい。
となかなか込み入った作りになっている。
4作目ともなると、たいへんだ。

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