2009年1月20日

ミリオンダラー・ベイビー

ミリオンダラー・ベイビー [DVD] 「MILLION DOLLAR BABY」 (2004年 米)
監督 クリント・イーストウッド
脚本 ポール・ハギス 
音楽 クリント・イーストウッド
製作総指揮 ロバート・ロレンツ、ゲイリー・ルチェッシ 
出演 クリント・イーストウッド(フランキー) ヒラリー・スワンク(マギー)
    モーガン・フリーマン(スクラップ)
    ミンテリ、「カジノ」のケヴィン・ポ
人の話を半分しか聞かないのが大きな欠点なので、ポスターやCMで見ていても、
この映画は富豪の捨て子をボクサーが育てる話かと思っていた、コレ本気で。
ふざけた前置きから入ったが、名作といわれるのにふさわしい心に残るいい映画だった。

*

富豪の捨て子ではなかったが極貧の家庭で育った女性(マギー)がボクシングで成功するのを夢見て弟子入りする。
場末の小さなジムを経営しているフランキーは元ボクシングチャンピオンで優秀なトレーナーだった。
アイルランド系アメリカ人の彼は敬虔なクリスチャンだったが、教会の神父からはあまり歓迎されてない。
その上娘とは絶縁状態で出した手紙も読まれずに返送されてきている。
一方弟子を思うあまり、見込みのある選手をすぐにはチャンピオン戦に出さず、優秀なボクサーは彼の元から去っていった。
彼女に対しては女性ということもあって毒舌を吐き、指導することを頑固に拒んでいたが、
熱心に練習に通うこととスクラップの陰からの勧めもあってやっとその気になる。次第に素質を認め、彼女の純で一途な人柄にも惹かれて厳しいトレーニングを始める。やがて試合に出るまでになった時、もうトレーナーではなくマネージャーの出番だと言い、いったんは身を引くのだが、見守らないではいられずついにマネージャーも引き受けてしまう。
彼女は生来の才能と練習で得た強烈なパンチで連勝を続け、人気も上がり、試合の申し込みも増えてくる。
いつまでも避けていられないチャンピオン戦だった、マギーの夢でもありファイトマネーの
100万ドルで過酷な生活から彼女を解放したいとフランキーも思い引き受けてしまう。
対戦相手は勝つことに手段を選ばないアフリカ女性だった。戦いを有利に進めていたマギーは引き上げるために背を向けた瞬間に相手のパンチを受けて倒れてしまう。
そこはコーナー近くですでにイスが置かれてあった。
倒れただけでなく、イスの角にクビがぶつかり頚骨を折ってしまう。
命だけは取り留めたが頭だけしか動かない重症で将来寝たままの生活になると診断が下る。
そしてフランキーとマギーの苦しい戦いが始まる。マギーはもう十分に生きたと思っていた、
しかし動かない体で死を選ぶことも出来ない、彼女は厳しい選択をする。

* * *

地味な映画でテーマもありそうなもので、目新しくはない。でも心を打つ。
マギーのヒラリー・スワンクを見た途端、ボーイズ・ドント・クライを思い出した。
性同一障害に苦しむ女性を演じた人だ。中性的で不思議な魅力がある。
モーガン・フリーマンも深みがある。
クリント・イーストウッドは年をとった、若々しい「ローハイド」から見続けていた彼が
こんな年になってしまったと自分を振り返ってみる。
枯れたような体がそのまま平安から見放された環境にぴったりに見える。
彼の監督作品はいい映画だと安心して見ることが出来る。
リング上の戦いも要領よくまとめ、後半、人間の尊厳を扱った重いテーマに時間を割いている。
ベッドに寝たままで顔だけで静かに哀願するマギーの表情も、それを見守るフランクの心の痛みも胸に迫る。
スクラップに対する深い悔恨、家族に対しての思い、頑固者の胸のうちには口に出さない人生の出来事が深く沈んでいる。
マギーは家族を思いやって自分を賭けたことに後悔はない、怠け者で卑怯な家族であったことが悲しみを誘う。
クリント・イーストウッド75歳、まだ最後の名作だと言って欲しくない。

モーターサイクル・ダイアリーズ

モーターサイクル・ダイアリーズ 通常版 [DVD] 「Motorcycle Diaries」 (2003年 英・米)
監督  ウォルター・サレス
製作総指揮 ロバート・レッドフォード
出演 ガエル・ガルシア・ベルナル ロドリゴ・デ・ラ・セルナ ミア・マエストロ
若い日のチェ・ゲバラと友人のアルベルトが故郷のコルトバからカラカスまで
中古のおんぼろバイクで旅したゲバラの日記を元に作られた。
ゲバラを演じたガエル・ガルシア・ベルナルの出世作といわれている。
裕福な家庭で育ったゲバラが革命家になった人格形成の過程と思想の基礎が伺える。
青春を謳歌しながら辿った南米の旅で美しい風景とともに厳しい自然の中で暮らす人々の生活を実感して、南米大陸に住む人々のことを語る場面が印象的。

*

ゲバラ23歳、アルベルトは30歳の誕生日を前に二人は1万キロを目指して南米大陸の旅に出る。
暖かい家族の見送りを受けて出発するが中古のおんぼろバイクはいつも故障するし、
ゲバラは持病の喘息に苦しみながらの旅はハプニングの連続で、所持金も底を尽く。
医学生のゲバラは行きづりの病人を診て宿を借り、、生化学専攻のアルベルトも人当たりのよさで何とか旅を進めていく。
雪をかぶったアンデス山脈を通るがそこではタイヤが滑って言うことを聞かず、
チリの海岸線を北上する道ではパンパの中を走り抜け港町に止まるが、
そこでとうとうバイクがだめになりヒッチハイクを始める。
アタカマ砂漠の中を銅山を目指す途中で、コミュニストであったために家も土地もなくして追われた夫婦にであう、焚き火を囲んで一夜をともにして、彼らの生活を知る。
銅山に着き夫婦は働くことになり、旅人の二人はそこから追い出される。
ペルーでインカの遺跡を見、サン・パブロのハンセン病院につく。
そこで病気のために隔離された人々の看病を手伝い人間的なふれあいに目覚める。
そこから空路カラカス向かいアルベルトはその地で職に就き、ゲバラと別れる。

* * *

豊かな家庭で育ったゲバラの見た厳しい自然の中での貧困と差別は、楽しい旅の記憶の中で、
彼の人格を少しずつ形作っていく、そのことを知る(偲ぶ)ために作られた映画なのだろう。
その後、キューバでであったカストロとの交わり、革命家としての運動のようすはあまり詳しくは知らないが、帽子に一つ星をつけた肖像は今でもなにかの折に見ることがあってよく知られている。
キューバ革命を成功させたこと、若くして人生の幕を閉じたこと、アルベルトとの友情は政界に入っても続いたこと、現在もアルベルトは健在であることなど、近い史実と対面することができる。
ガエル・ガルシア・ベルナルのものは偶然三作見た、彼は特異な風貌で、美少年ながら何か暗いものを秘めたような不思議な雰囲気があり、そのような役柄が多い。
すごく若いひとなのに非常に印象的。

2009年1月19日

マグダレンの祈り

マグダレンの祈り [DVD] 「THE MAGDALENE SISTERS」 (2002年 英・アイルランド)
監督  ピーター・ミュラン  
製作  フランシス・ヒグソン  
脚本  ピーター・ムーラン
出演  ノーラ・ジェーン・ヌーン(バーナデット)
      アンヌ・マリー・ダフ(マーガレット)
      ドロシー・ダフィ(ローズ/パトリシア)
     アイリーン・ウォルシュ(クリスピーナ)  
キリストに救済された売春婦のマグダラのマリアの名に因んで名づけられた、
実存した修道院が舞台の実話を映画化したもの。
この修道院はダブリン(アイルランド)の郊外にあって最近、1996年まで存在した。

*

結婚パーティで従兄弟に犯されたのが原因で収容されたマーガレット、
美貌が男性の目を惹くという理由のバーナデッド、未婚の母になったローズとクリスピーナ、
それぞれの家族にとって、こういう堕落した出来事は「恥」だという理由で、信仰と労働によって
矯正させるという名目の修道院に収容し、彼女達は生涯をここで暮らさなくてはならなくなる。
門には見張りが立ち終始監禁された状態で働かされる。
仕事は汚れ物の洗濯で、毎日洗っては干し洗っては干し、ただ単調なこれの繰り返しの毎日である、その上外部からの洗濯物の注文で得た利益は教会に入る仕組みになっている。
教会内部の権力者である神父やシスターは彼女たちを奴隷のように扱い時には裸にして並ばせ身体を見て笑ったりする。神父は性行為の相手をさせる。
人権も自由もない暮らしの中で、自己を見失うもの自殺を試みるもの反抗して拷問を受け、
髪を刈られるものなど、家族に見放された上煉獄のような暮らしが続く。
若い女性は清廉で質素で純潔でなくてはならないという社会の中で、
故意であってもなくても、純潔を失えば魔女狩りのように捕らえられ、教会に隔離され、
次第に人としての尊厳が奪われていく。
信仰の名を借りた教会内部の腐敗は、外に知られることもなく、少女とも言える年齢の者に恐怖を与え続けた。
こんな中でついに脱走に成功した二人の女性の精神力の強さに感動する

* * *

権力を持つものの傲慢さが持たないものを抑圧し、それが目的のためには当然とされた閉ざされた空間で、密かに長い時間虐待が続けられていた。
それにも拘らず、だれも救済の手を差し伸べなかった。家族の「恥」を隠蔽するには格好の施設だった。
社会とはそういうもので、人間とはどうしようもない強さと弱さを併せ持っている。
ただ社会がどうあろうと人がどういうものであろうと許されないものがある。
このような現実が実際に存在した社会があり、人としての自由がいかに大切なものかを問うこの映画は、目前のシーンだけではなく、それを引き金にして考えられる多くのものを心の中に残した。
四人の少女役は個性的で素晴らしい。それぞれの背景をしっかり表現している。
ストーリーの流れに破綻もなくとてもいい作品だ。

ヴェネチア国際映画祭金獅子賞 他多数受賞

マスター アンド コマンダー

マスター・アンド・コマンダー [DVD] 「MASTER AND COMMANDER」 (2003年 米)
監督 ピーター・ウィアー 
原作 パトリック・オブライアン  
出演 ラッセル・クロウ (オーブリー艦長))  ポール・ベタニー (船医マチュリン)
    ビリー・ボイド  ジェームズ・ダーシー  マックス・パーキス
監督の名前を見て面白いかもしれないと思ったので何の前知識もなく見始めた。
出だしは、少し太っている艦長(ラッセル・クロウ)が窮屈そうにクラシックな船長服を着て、
帆船に乗っていた。これはCMでチラット見たアレか、とやっと思い出した。
それがなんと、面白くてあっという間に終わってしまった。
期待もなくてこんなに楽しい映画に出会ったのは幸運だった。
だがどうした訳か余り話題に上らなかったが、アカデミー賞では撮影賞と音響効果賞をとったとか、
アカデミー賞ってなんだかなぁと思っていたがまぁ見るところは見ているのだと、
この映画の事もあって少し見直した。

*

ナポレオン皇帝軍の「ケアロン」号とイギリス軍の「サプライズ」号との大西洋での戦い。
まだ帆船の時代で、(この帆船というのは、動かすのに大変な体力がいるものだ)
オーブリー艦長の「サプライズ」号は「ケアロン」号に比べて規模が小さく装備、
速力の点など相当に負けているので、出会った時は勝ち目がなさそうだと、乗組員は緊張している。
だが艦長は歴戦を勝ち抜いてきた伝説の人物なので、訓練のためと人手不足もあって乗船している少年の士官候補生たちは、信頼と憧憬を持って励んでいる。
小さい子供たちが可愛らしい。艦内には食料用に動物まで飼っているのだ。
ついに出あった両船の対決は、艦長の機智に富んだ戦略で乗り切る。
これが又緊迫感となんともいえない爽快感があって面白い。
戦って勝つためには手段を選んでいられない艦長の良心を、船医のマチュリンがうまく代弁している。
親友の二人は航海の平安な折にはそれぞれバイオリンとチェロを弾いて楽しんだり、艦長は乗組員と会食をして今までの戦いの話をしたりしている。
船長室は最後尾の大きく開いた窓がある気持ちよさそうな部屋だ。
船医は珍しい生物の研究が趣味でガラパゴスの近くを通るときは上陸できるのを楽しみにしている。
などほほえましい話もある。

* * *

今のように計器なども進歩していなくて操舵等すべて人力だった時代は、
戦うにも艦長の指揮に運命をゆだねていた時代だった。オーブリー艦長の活躍は見ていても楽しい。
嵐の中の帆船の走りは緊張感と共にロマンがある。
(そういえば前に見た「白い嵐」も帆船だったし面白かった)
壊れた部分をすぐに修理する様子など、船内の生活の仕方も興味深い。
「ケアロン」号に乗り込んだ時、艦長がベッドで死んでいた。
いくら相手の船医がそういったとしても、素直に信じるのはオーブリー艦長らしくない。
出あったことはなくても死んでいるのが本当に艦長かどうか一応疑ってみるものでしょう。
もう長く、超高額所得者になって、ステキなラッセル・クロウも太ってしまったんじゃないかな。
少し運動して引き締めて欲しい。
マチュリン医師のポール・ペタニーの奥さんはジェニファーコネリーだって。
やはりイギリス人はイギリスの人と結婚するのがいいのかな。
なんて余計なお世話かも。