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ふるさと銀河線 軌道春秋



高田郁

「ふるさと」は、いい。昔の自分が残っている。

高田郁さん、カオルさんと読むんですね。友人と同じ名前なのでイクさんと読んでいた。

「みをつくし料理帳1」の「八朔の月」だけを読んだ。 シリーズのたった一冊だけ読んだだけなのにとても面白かったので、そのあとも気になるのは柔らかく引き込まれるようなストーリーのせいかななどと思っていた。

帰って読み始めたらとうとう夜中過ぎまでかかってしまった。
読み終わっても感動してしまって、もう一度拾い読みまでした。

田舎があるので故郷という言葉に弱い。その上この短編集の表題になっている北の故郷は、風景も美しく、兄弟愛も主人公の郷土愛の深さも胸にせまってきた、どの作品も短いけれど、日ごろ溜まった様々なものが流れ落ちるようだった。

 お弁当ふたつ
退職した夫とそれを察した妻が、いつものようにお弁当を持って出かけていく夫を、そっと追いかけて駅のベンチで一緒に食べる話。

 車窓家族
信号停止する電車から見えるアパートに、夜中でも電気が消えない部屋がある。そこに住んでいる老夫婦の生活が電車の窓からよく見える。乗客の中に二人をいつも気にかけている人たちがいた。人のふれあいが暖かい。

 ムシヤシナイ
長く絶縁している息子のところから孫がふらっと来た。おじいさんは駅のホームで立ち食いそばの店をしている。外から半身を見せているが入ってこない孫には、何か鬱屈したものがあるらしい。そのうち少し手伝ってくれたりするようになる。家に連れて帰って少し暮らしているうちに、孫はなにか吹っ切れたような優しい顔をして帰っていった。

 ふるさと銀河線
めったに通らない電車だったが、育った風景の中にいつもあった、過疎化していく故郷を出て行く決心がつかなかった。兄が背中を押してくれるまでは。秀作。

 返信
15年前になくなった筆不精の息子が旅先から出した一枚の手紙がある。老夫婦は息子の跡を訪ねる旅をする。旅の宿で、夫婦ははじめて返信を書いた。

 雨を聴く午後
線路脇の古いアパート。前に住んでいた部屋が気になって電車の中から見ていると、ベランダに一足の真っ白く洗ったソックスがいつも干してある、住んでいるのはどんな人なのだろう。彼は前に作っていた合鍵で入ってみる。留守の部屋に入ると少しだけ気配が残っている。「ダイジョウブ」と話すインコもいる。ある日テーブルに書きかけの手紙があった。

 あなたへの伝言
ここも線路脇の古いアパート。住んでいる女は別居中の夫に手紙を書いている。断酒もして仕事も続けていると。その日履いたソックスを、白く白く洗い上げて夫の通勤電車から見える所に干す。元気です、ダイジョウブ。

 晩夏光
アルツハイマーの予感がしてノートをつけ始めた。正常な自分と壊れていく自分に向き合わなくてはならない。

 幸福が遠すぎたら
同級生三人が嵐山で再会する。大学を卒業して16年経った、それぞれの人生がしみしみと感動を呼ぶ。

積読山を見ながら、こういう本をもっと読みたいと思いながら、この山を崩すのはそうもいかないなと思った。


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