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(002)絆

絆 読書
(002)絆 海音寺潮五郎 コナン・ドイル 山本周五郎
読書好きの集まりで百年文庫を紹介された。版画の表紙が素朴で美しかった。お勧めの「絆」から読んでみたがちょっと泣けるようなほかほかと暖かい気持ちになった。
確かに100冊、漢字一文字のタイトルも美しい。一冊に三名の作家の作品がある。知らない作家にも出会えるだろうと喜んで、おすすめから読んでみることにした。

☆海音寺潮五郎 善助と万助
三番家老の母里但馬友信は黒田節にうたわれた人物で幼名を万助といった。
一番家老の井上周防は善助といった。子供の頃自分から売り込んで、まだ若かった如水に仕えた。
その頃如水の父は姫路城の城代だった。如水はこの只者でない気が利いて誠実な善助を小姓にした。
代々仕えて来た万助と言えば、無法者で強情な意地っ張りで一度厭だと言えば何があっても曲げない。逆らうとすねる。だた一面そうであっても実直で誠実、これ一筋だった。
長政が城を預かった時、如水に使えていた二人を家ごとあずかった。同輩も手を焼く万助と、老成した感のある善助の二人を呼んで兄弟の約束をさせた。指南なんぞされたくない万助は、何度も口説かれてやっと承諾した。
朝鮮攻めの戦いの折、長引き兵糧も減ってきた。らちが明かず重役が出かけることになり太兵衛(万助・のちの但馬)が出た。源兵衛(のちの桐山丹波)に様子を見に行かせると、近くの銃声は「味方の敗戦かとみえる」と報告した。
応援がいると周りは言ったが長政は「様子を見よう」といった。一同出陣の構えで様子をうかがう中、山のように兵糧を分捕って但馬が帰ってきた。長政は「であろう、であろう、あっぱれ」と御満悦。
だが口さがない酒宴の席で、負け戦だと報告されたことを知って但馬が狂ったように怒って暴れ始めた。やっと喧嘩は取り押さえたが。
それ以来14.5年二人は口をきいていない。殿が丹波を家老に、と相談すると但馬は「嫌いでござる」と同意せず、顔が合うとにらみつけるばかり。丹波から幾度も詫びを入れたが「厭じゃと言ったら厭じゃ」
そこで長政がふと思いついて、栗山備後(善助)を呼んだ。「意見いたせ」
痩せて小柄な丹波が御前に呼ばれ、髪は白いが今だにたくましい但馬(万助)が並んだ。
長政と備後が説得する。但馬は何を言われても石のようにうつむいたまま。そして「命なら差し上げます、だがこの儀ばかりは」と梃子でも動かない勢いで言い切る。
何を言っても「いやでござる!」
長政「わしにそう言うのか!」「いやでござる!」
「きちがいめ!」備後の手がひらめきさっと殴りつけた。人々が肝を冷やした。
但馬は動かず、のしかかった備後はなおも殴り続け、「おのれその根性まだ治らぬ、どうしてくれようぞ!どうしてくれようぞ!」殴るのをやめても言い続けた「一身を捨てる覚悟があって意地が捨てられぬか、大家の家老なら堪忍と斟酌がなければならぬに」
俯いて動かない但馬は泣いていた。
そして言った「まことに心苦しく思ったが、いったん思い定めたことで歯を食いしばってこらえてきました、しかし今日唯今よりかしこまって和解仕ろう」
「如水様に書いた宣紙で善助とは兄弟、言うことに背くなと言われ、備後は悪さのたびに訓戒し突き倒し殴りつけ折檻までしてくれたのです。それで非業に死ぬことなく生きてこられたのです。今も変わらぬ友情にうれし涙がこぼれました」

☆コナン・ドイル 五十年後
始まりは

大宇宙のどこかに存在する渺たる一個の惑星であるにすぎないこの宇宙の表面で

時代がかっているが面白い。
スペインのドン・ディエゴがコルクを量産して英国に輸出したらどうかと思いつき、資産家の彼はすぐに大工場を建てて大成功した。結果彼のきいたことのない土地、英国の田舎で多くの貧しい人たちを貧困にあえがせ不幸のどん底に落とし込んだ。まるでバタフライエフェクトのように始まる。
倒産して仕事がなくなった男が結婚式を目前に、愛しい未来の花嫁を残してカナダへと船出した。
娘は涙ながらに見送り帰りまでこの二人の家で待っているといった。
しかし一年待っても二年待っても男は帰ってこなかった。心変わりしたのだろう。死んだかもしれない。こころない人々は噂したが彼女は信じなかった。
男にはどうしても帰れない訳があった。そして五十年後、ついに帰って来た。花嫁の待つ昔ながらの家。町はすっかり面変わりしていたが小さな家は古くなったそのままであった。
コナン・ドイルは小品も優れている。ありきたりに流れそうなこんなロマンスものを最後ではティッシュをとりに行かせるほどに仕立てていて、久しぶりに私は読書して泣いてしまった。

裏表紙に作者の紹介がある。コナン・ドイルはシャーロック・ホームズの生みの親。ほかにもシリーズものは書いているが、何と言っても彼はシャーロックの生みの親だ。と思っていたが、ドイル氏がどんな人かはあまり知らなかった。紹介を読んでビックリ、気の毒というかなんというかしばらく笑いが止まらなかった。この人は面白い。失礼ながら興味深い。
例えば、医者の免許を取って友人と医院を開いたが患者が全く来ない、余った時間で原稿を書いた、とか、船医になったが流行り病に感染して死にかけたとか。資格もないのに耳鼻科医院を開いたとか。
シャーロックの話が売れてどこへ行っても大歓迎でサインを求められた「シャーロックって書いてください」「話の続きは?」彼はむくれて、シャーロックが嫌いになりとうとう滝つぼに落としてしまった。ところがまたアイデアが浮かび復活させ、仕方がないので時代をさかのぼらせた。それは何か聞いたことがあるうすぼんやりと。
サーの称号をいただいたいい話も知りたいしで、アーサー・コナン・ドイル『伝』をワクワクで図書館に予約してしまった。

☆山本周五郎 山椿
これもいい話。「さぶ」を書いたひとだけに。

武家の誇りを男も女も持っていた時代、時代小説はそこがいい。
その上時が流れても、人を恋い慕う深い心情は美しい。なんか照れる
ここでは思い人を隠して嫁いできた女、何日たっても夫を側にも寄せ付けない、おかしい。
だが訳を知った夫が苦悩の末、家名も守れるある計画を立てる。
思慮深いできる男に嫁いでよかったとは野次馬だけれど。ここはちょっとミステリ味もして、気分よくさっさとミスリードされる。
そして、今まで両親のない家を暖かく守ってきた娘がいて。
塩味も利かしてある。何しろ世間知らずの嫁だから、その恋人がどうにも崩れた人物で、箸にも棒にもかからない、とうまい設定である。
いい男の周りにはできた知り合いもいて。そういったつながりもほのぼのする。

どうも百年文庫というのは、あまり知られない(私だけ?)名短編を三作ずつ選んでいるらしい。知らなかった気の合う作家の作品に出会えるかもしれない。


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