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『罪と罰』を読まない



岸本佐知子
三浦しをん
吉田篤弘
吉田浩美

「罪と罰」をさかなに、笑いと涙の座談会 読まずに読むで幕開け。岸本さんが最初と最後の一部を訳して配布する。立会人として読んでいる文藝春秋の編集者が参加して、時々本文のごく一部を朗読して軌道修正をする。

「四人が知っている数少ない情報を寄せ集めて、そこから探偵のように推理していくわけです」(吉田篤弘) 

読まない!(未読座談・其の一)
 <誰も読んでいないまま、冒頭を訳した岸本さんがまず口火を切るが、それぞれの持っている情報は大雑把で、背景や人物などについて異口同音に「へ~」という感じで始まる。
ここで、ドストエフスキーがシベリアに流刑、死刑執行直前に回避された。と「三浦さん」の情報。その後大作を書き始めたそうでこの後カラマーゾフの兄弟を書いている>
また
「岸本さん」ラスコはね、なんか二人殺してるっぽいんですよ。
「三浦さん」 ええーっ
「篤弘さん」ホントに?

<という具合に少しの情報で驚き、推理していく。このあたりから名前を省略、ドストエフスキーは「ドスト」にラスコーリニコフは「ラスコ」に。ラズミーヒンは「馬」に爆笑 
 約束で編集さんに少し読んでもらうと、「イリヤってだれ?」>
「岸本さん」殺し終わってから出てくるなんてイリヤもわるいやつだねえ。
「三浦さん」私たち他に人名を知りませんからね(どや)
「三浦さん」そうか、捨てキャラか。
「岸本さん」捨てキャラ!
<やはり作家さんたちはこの方向でも読む (笑)
びくびく者のラスコ判明、そして「浩美さん」が15分放送した影絵を見ているので少し知っている。ついでに殺してしまった二人目のリザヴェータについてもソーニャと知り合いだったというと>
「三浦さん」『リザヴェータおばさんを殺したのは誰なの!』ソーニャは悲憤し、ついに安楽椅子から立ち上がった。」
「篤弘さん」名探偵ソーニャ。
「浩美さん」つかまえたら、わりにイケメンだった―――。
<ここ「79p」三浦さんなりきって創作話を独演> 
「三浦さん」第二部はこのようにハーレクイン的に攻めて、第三部で神の残酷さを本格的に問う宗教論争になだれ込む。
「岸本さん」盛り沢山で、いろいろしないとね、なにしろ、この長さだし。

読むのかな…(未読座談・其の二)
<ラスコーリニコフって苗字なんだ。と始まり謎解きに至る。
ラスコが酒場で知り合った飲んだくれの親父がソーニャの父親と判明「浩美さん」の影絵情報。>
「三浦さん」父親が飲んだくれだからソーニャが娼婦をやっていると。
(朗読)ラスコは母と妹をしっかり抱きしめ…一歩前に踏み出すと、ぐらっとよろめいて、つんのめるように床に倒れ、そのまま気を失った。戸口に立っていたラズミーヒンは。
後で話題になるがラスコはよく気を失ったり病気になったりして倒れる。
「三浦さん」ラズミーヒンて、誰?響きからして馬?
「岸本さん」戸口に立っているし!
「三浦さん」「はニャー、ご主人様、しっかりしてくださいなりー」

読んだりして…(未読座談・其の三)
ラスコ婚約するの巻
<長くなるので発言を勝手に総合すると>、あまりきれいでない娘は家主の子で、家賃の滞納で、政略結婚?娘とつながっていれば踏み倒せるかも、ってなんか、超ワルじゃない。不細工で持て余して、いい男が入ってきたからくっつけちゃえ、みたいな。そっちか。「三浦さん」まずそっちかと思った。「篤弘さん」どっちがワルなんだ。
「三浦さん」「金銭的にまずいぜ俺」となって革命もしなくちゃならない。そこであわてて因業婆を殺した――違うかな?」
「岸本さん」辻褄はそれで合うよね。
「三浦さん」え、辻褄、合ってましたか?

殺してお金とってきたんでしたかね。取ってたんじゃなかったっけ。思想があるんですよラスコは。その思想自体ラスコのいいわけだとおもうんですが、一番の動機は当座のかねじゃないでしょうか。
ラスコの思惑通りにいかない、そこに惹かれて読んでいくんじゃないでしょうかね。思惑通りに運ばない、とういう追い詰め展開にするはずですよ。

<こあたりミステリ的推理の流れになっていて、推測の筋道も何気に面白い>
「篤弘さん」お金なのか社会へのメッセージなのか。
「三浦さん」両方だと思います。
「岸本さん」ラスコって「顔だけ男」で、友達もいない。

正しいと思っていたけど、ついでに犯した第二の殺人が重荷になってくる。(篤弘)
ラスコが悩む理由は二人目の殺人がソーニャの知り合いだったからではないか(三浦)

<お母さんとドーニャ(妹)がサントペテルブルグに来る、ここまでで一日しかたってないことに驚く4人。「罪と罰」って二週間くらいの話?、一つのエピソードを異様に長く書いている。ここも作家の目で>

「罪と罰」登場人物紹介 P198~202
これをよめば大筋もなんとなく理解できる。名前が長い長い、ニックネームを付けてあるので話が早い。
それでも
マルメラードフって誰でしたっけ?(三浦さん)
「岸本さん」マメ父ですよ。(ソーニャの飲んだくれの父親)
<名前からも推測が広がっていく、この登場人物一覧は素晴らしい忘れたころにまた役に立つかも、図書館本なのでコピーしておきたい>

そしてついに「あらすじ」の公開<これもコピーして永久保存>

というわけで「罪と罰」を読み終えた4人は、再び都内某所に集い、それぞれが読んだ文庫本と、読みながら控えたメモとノートを机上にならべ、立会人による開会宣言を待たずして、なし崩し的に話し始める。最初の話題は、読書会に選定された二種類の翻訳本
の、どちらを選んだか――。

<光文社古典新訳文庫と新潮文庫>

最初の一言は揃って
面白かった!だそうで、
人多すぎ、しゃべりすぎ(岸本さん)後出てくる人はみんな頭おかしい(三浦さん)
カテリーナさん(ソーニャの義理のお母さん)は皆さん大好きで、でも一番人気はスヴィドリガイロフ(ドーニャが雇われていた主人、妻が死んだあとドーニャを追いかけている)
「篤弘さん」スヴィドリガイロフはこの人が小説の鍵ですね。あと本編で経過する時間が二週間くらいで本当に短くて驚いた。

泉鏡花やニコルソン・ベイカーに似ているかもといったのは岸本さん。

<読後の締めあたりでも様々に参考になる話題が広がって、ただ面白いだけでなく幅広い読みっぷりに感激。肩肘張らない会話がまた気持ちを楽にしてくれる。名作といわれる重厚さが見た目だけで、長いけれど一面エンタメ風味もあるかのような。ドストエフスキーのこの折り紙付きの名作がどことなく怪作に思えたりする。登場人物にも次第に親しみがわいてくるところが伝わってきた、さすがにこの方たちの読みは幅広く(妄想だけでなく)深い。どんな本もこう読めればいいが>

中学卒業したころにカラマーゾフの兄弟、白痴、悪霊を読んだけれど、はっきりした記憶は欠片も残ってない。きっと読まないといけないところがわからなかったのかもしれない。この対談はしみじみと面白かった。メンバーも好きだったし。


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