連続殺人なので被害者も多く、それぞれ何かしら陰のある過去があり、性的な繋がりもある。
似たような名前の女が出てきて整理しながら読まないと少し混乱する。そこに読者のためにうまく登場人物と事件のメモがある。
連続殺人のようであり、模倣犯らしい事件もあり、事件同士繋がりがあるようなないような、話の進展が整理できない段階に入る。
捜査中の二人は、地元警察官のため地道に歩き回り、それぞれ被害者の過去に迫っていく。
この二人の会話が、事件の重さと対照的に軽くユーモラスで気が利いている。
中村さんに珍しい警察物だが、納得が出来る進展。
犯人の動機や、そんな方法を選んだ人間の暗い現実が独特の世界を感じさせる。
こういう心の部分に興味がある読者には面白い作品になっている。
だが、連載小説のためか、密度にむらがあった。
登場人物のそれぞれの背景は書きこまれているが、生活の分野としてはそんなに多岐にわたるものではない。だとしたらもう少し整理できないだろうか。
警察機構にも少し触れてるが、溢れている警察小説に比べて、味が薄い。
最終的な印象では少し詰め込みすぎて、逆に読後感の重厚さにかける感じがした。
中村さんの作品の特徴である、特殊な環境で隔離されたような生活観に、煎じ詰めれば人間の持つ心理の一部として共感を持っている。
重い作品はそれなりに重く、軽妙なリズムもこなす作家なので、この作品はそのどちらともいえない未整理な感じがした。
エンタメ小説としては読んでよかった、中村臭がする味わい深い心理部分ではお得感もありさすがだと思わせてくれたが。
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「あの人のこと、私尊敬してるんです」
「何で独身なんだろう、モテそうなのに」
「モテるからですよ」
小橋さんはそう言い不適に笑う。
「フロイトが言ってることだけど」
「”錯誤”は人間の単純な過ちではない可能性があるって。その無意識による行為かもしれないって」
人間は面白い。