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ほかならぬ人へ



白石一文

生まれも育ちも恵まれた明生が、「ほかならぬ一人の女性」を求める話。「永遠のとなり」と一緒に、白石ファンの方に強く勧められて読んでみた。

「ほかならぬ人へ」
優秀な家族や係累の中で、自分は生まれそこなった凡庸な人間だと思っている明生。
それでもコネで、世間に知られた会社に入り、真面目に仕事に精を出している。
だが、初恋の相手には「普通の生活がいい」と言って振られ(普通って?)、次に美人だと評判のキャバクラ嬢と結婚する。だが明生の思いとは別に彼女は初恋の人のところに逃げてしまう。
結局、頼れる上司と一緒になるのだが、彼女も肺がんで逝ってしまう。
文章も明生に相応の単純さだが、直木賞作家の作品なら、少し浅すぎるかな。
ぴったり来る相手と結婚したというのはよくわかるが浅い、その上家庭を持ち生涯を共にするという展望はない。目先の出来事を安易に受け入れ、それに振り回される様子は、読み応えがない。仕事を通した出来事も、特に必要も感じられないくらい長く挿入されているが、社会情勢に敏感な作者の関心のあるところを述べたのだろう。
えもいわれないいい香りがするという、年上の上司と落ち着くが、先立たれてしまう、このあたりから明生は落ち着きが感じられてくる。
残された明生の悲しみが素直に伝わってくる。
この年上の上司が、さっぱりとした人柄で仕事もでき明生を引き立てている。この部分に好感を持った。ただ生まれそこなったところだけは自覚がある甘えたダメ男だったら、それなり少し深めて書いてほしい。いい人だけに。

「かけがいのない人へ」
主人公の「みはる」も裕福な家の出である、頭はいいが顔立ちは平凡、社内でも人気の男性と結婚の約束が出来ている。
しかし、ひどく野生的な上司と付き合っている。彼は「みはる」に結婚相手がいることを知っているが、リュック一つで転がり込んできたり、夜になってふいに部屋に来たりする。彼はバツイチだが結婚の意志はない。ただ仕事が出来る男で、社内の主流にいたが、引きであった役員の退職で、立場を考えなくてはならなくなっている。
ここでも社内の力関係などが挿入されている。業績が不振になり赤字に転じた末、吸収合併という選択をしなくてはならなくなってしまっている会社の事情から、役員の異動や進退問題、それにつながる部下の行く末などページを割いている。
男女の微妙な関係や、結婚を控えた年頃の女性の気持ちを書くのなら、相手の男性の仕事には深入りしないで背景としてあっさり書き流して欲しい。まして、結婚相手でない男性とのアダルトまがいの性描写は、繊細さを感じさせる題名には全くそぐわない。悪趣味に感じられる。
作者は書きたいことをまとめるのに苦労したのではないか、この題名に沿ったもう少し深く男女の心境を掘り下げ、何か別のものを作り出そうとしたのではないかという気もする。

恋愛小説ファンに合う作品なのかな。こんな感想でちょっとしょんぼり。


お気に入り度:★★★☆☆
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