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とせい



今野敏

題名どおりヤクザの世界の話だが、昔ながらの伝統的な任侠の世界で。代貸の日村の下で場違いの出版社を立て直す、愉快でハートフルな話。

僅か組長を入れても6名の小世帯。厳しい組長の教育のおかげで、礼儀正しく義理堅く、人情に厚いヤクザが育っている。
主人公(語り手)は代貸(ナンバーツー)の日村で 下に市村、二ノ宮、三橋、志村という若手がいる。
イチ、ニ、サン、シ というわけ(笑)
こういう小さな組なのだが、なぜか組長はこの世界で人望が厚い。揉め事の仲介はヤクザの得意技だ。揉め事をおさめて、そのカスリをいただく。それもシノギの一つだ。
だから、本物のヤクザはいくらでも我慢強くなれる、人を説得して得を取る。
相手は食い物にされたことも気づかず、揉め事が解決してよかったと感じる、
そういう状況を作るのが一流のヤクザというものだ。

世の中が住みにくくなっている。と日村は心の中でつぶやいている。
ヤクザが住みにくいということは、一般の人も住みにくいはずだと、日村は思う。
つまりおおらかさがなくなっているのだ。他人とちゃんと付き合うことができない。
礼儀も知らなければ、気配りもない。
隣近所との付き合いすらできない人が増えている。人間関係がぎすぎすするのはあたりまえだ。
最近は、やたらにガキが人を殺したり、傷害沙汰を起こしている。
最近の親を見ているとヤクザを見習えとさえ言いたくなる。

巡り合わせで出版社を手に入れた、つぶれかけの出版社だが、
一般社会からはみ出したと思っている若手の4人は、憧れていた社会に入ったようで大喜び。
組長は社長になって日村は役員に就任する。

「任せる」という組長の一言で今まで何もかも日村が引き受けてやってきた。
今回もいつもの一言で、ごたごたに巻き込まれつつ、右往左往しながも解決していく。
日村は業界の「コーリョウ」の言葉も知らず、この日が戦場になる意味が分らない。
でも出版社は目途が立ち、社員はやる気を出してくる。

義理人情に厚いヤクザの苦労話だが、その世界は、昔ならさしずめ厳しい掟を守る盗賊が、残虐非道な盗賊を嫌う様なものだろうか。

やくざのとせいなのに、ほの温かくふっと息が抜けるような話だった。


お気に入り度:★★★★☆
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