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ねじれた文字、ねじれた路



トムフランクリン
TomFranklin

「S」という文字のようにねじれているが、人はねじれをなおす生き方を見つける。変わった題名だが、Mississippiの片田舎の子供たちは「S]をこう習う。

ロサンゼルス・タイムズ文学賞を受賞

少年二人の友情と、それが壊れてからの長い年月がある。
25年後に再びめぐり合った二人の運命が、簡潔に接続詞を省いた文章で積み上がっていく物語。読みやすくひざびさに読後感のいいミステリだった。中には偏狭な田舎町の人々の仕打ちを黙って受け入れるラリーの生き方と、その底辺にある黒人と白人という人種問題も重くなく理解できるもので、ミステリというジャンルを超えて、この物語に二人は効果的だった。

ラリーの家にゾンビの仮面をかぶった男が侵入して至近距離から胸を撃たれた。そこから物語の幕が上がる。

ホラー小説を愛するラリー・オットは41歳になった今、人里はなれた家で孤独で静かな一人暮らしをしている。父親から受け継いだ自動車修理工場を持っているが誰も来ない。その理由は過去の事件にあった。

一方、黒人のサイラス・ジョーンズは極貧状態で母親と逃げていて見つけた小屋に住み着く。母はラリー家の召使になった。彼らは同じ学校に通い親しい遊び友達になった。
当時サイラスは野球の才能があり学校ではスターで、白人の女の子シンディと付き合っていた。
誘い合って映画を見に行くのを、ラリーが手伝った。だがその日シンディは帰ってこなかった。現場にいて誘拐したのではないかと疑われたラリーは、それ以後自動車工場に来る客もなく孤独に暮らしてきた。

サイラスは野球で大学に進学したが肩を痛め、海兵隊に入り、ついに故郷に戻ってきた。いまでは「治安官」とか「32」と呼ばれている。

ラリーにあうことはなかった、過去にはもう関心がなかった。だが新たな失踪事件がおき、ラリーが撃たれ、二人を結ぶ糸がまた繋がっていく。

ラリーは命をとりとめたが昏睡状態で、目覚める様子がなかった。

サイラスはラリーの病室の警護に当たり、過去に少しずつ近づいていく。子供時代サイラスと同じチームにいたM&Mも 川で死体になって見つかっている。

サイラスが大学に進学してミシシッピの田舎を離れた後、彼らは交わることなくそれぞれに人生を生きてきたのだ。

ラリーの母親はまだ生きていたが、痴呆が進み、たまに霧が晴れたようなときにだけサイラスを思い出し、サイラスの母のことも思い出す。
そして過去の事件の糸口はこの母の朧な記憶の中で見つかる。

このあたりから短い記述が一気に重みを増す。
サイラスは忘れていたあの頃の思い出や彼らの家族の生活が、次第に甦ってくる。
ラリーと一緒に過ごした子供時代を振り返ってみる。

そして過去の事件、新たに発生した事件、現在のラリーの事件が徐々に解決に向かう。

少年時代は遠くなっていたが、糸はつながっていた、静かに運命を受け入れてきた孤独なラリーの描写がいい、スポットライトを浴びた過去があり運命を切り開いていこうとしたサイラスもいい、この話はミステリだけではなく良質の文学の香りがした。

題名は小学校で書き方を習うときのSという文字のこと。


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