今読んでみると訳されて定着している「家の崩壊」とする方が深い。
「Fall」はそういったことなのか。アッシャーという名家には嫡男ばかり生まれ、引き継がれてきたという歴史を含む家柄が途絶えることなのか。古い苔と蔦に巻かれてひび割れ、崩れ落ちる「館」のことなのか、その両方なのか、暗い幻想が作り上げた物語が「家」の最後の姿を幻想的に恐ろしい雰囲気を纏ってよく表している。
友人の手紙で 初めてその館を訪れその奇怪な雰囲気と死を看取った「私」という主人公の話は、有名なポーの傑作で、沼に写った古い館のイメージは子供の頃に読んだ姿そのまま、本の中から現れた。神経を病んだ妹の不可解な死後の埋葬に立ち会い、友人もまた家とともに崩壊していく姿は、この世のものではないポー独特の恐怖と異界の空気を纏っている。館が沼に写る幻想的な倒立の姿は、読みながら心の中では古い木から下がった「サルオガセ」の不気味な姿まで加わって映像になって表れて来た。
大鴉
長い詩は内容の深さで多くの研究書が出ているそうだが、一部訳されたそのリズム感はいつまでも響いてくる。
「Nevermore」としか答えないカラスに、語り掛ける若い恋人を失ったばかりの青年が、様々な問いかけや独白や思い出やたとえを投げかける。詩の形をとったポーの計算通りの虚無感と表現は、悲惨な生の不安をただ「Nevermore ほかにない」という計算づくにも思えるカラスの答えの中に、深い哀感を漂わせている。
ヴァルデマー氏の死の真相
催眠術にかかったまま死にたいと思った男が辿った死への道筋。死に行く恐怖は周りに衝撃を与えた。ポーの死のテーマが強烈に恐ろしく出ている。
大渦巻への降下
渦巻きに巻き込まれた漁師は恐ろしい光景を目にしたようだが、読んでいて面白い。
小島が林立する海では潮の満ち干でそういう現象も起きるだろう。すり鉢の淵を回るときに見た光景は何か雄大で力強い。そこに引き込まれまいとするとっさの判断や、耐え抜いてついに流れがゆるくなるのは、何か恐怖談よりも冒険談に近く、あたりの風景も心の中で元の形に戻ってくる。
群衆の人
どんな生き方をしてどんな物語を残しても、積み重なった死は、振り返れば群衆に紛れた一つの顔に過ぎない。通り過ぎる人々の顔を観察していて一人の老人を付けて行った。結果老人もまた
「どうあっても一人にならない。群衆そのもの。群衆の人だ。いくら追っても無駄なこと。あの人物、あの行動がこれ以上わかることはない(…)だがもともと読みようがないようにできているなら、それも神の憐れみと言うしかなかろう」
結果はそんな意味だろうか。素晴らしく哲学的で、重く深い観察の結果は何か共感を覚えるような締め方になっている。
盗まれた手紙
手紙の隠し場所は。引用されることが多いよく知られた作品。
黄金虫
短編だけれど、推理と謎解きの元祖ミステリー小説。
300ページほどの薄い本だが、改めてその面白さと歴史的な価値を確認した。
又、年譜を読んで、ポーは自分の将来の予感があったのか。恵まれない短い生と死の間で執拗に書いた、そんな彼が授かった才能と、薄幸の生涯が重かった。
興味を引いたものだけを書いてみたが
収録作品は
「アッシャー家の崩壊」「アナベル・リー」「ライジーア」「大鴉」「ヴァルデマー氏の死の真相」「大渦巻への降下」「群衆の人」「盗まれた手紙」「黄金虫」