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魔法の夜



スティーヴン・ミルハウザー

太陽の昼は現実、月の光に照らされたのは魔法の夜。ミルハウザーの美しく精緻な言葉が、月夜に目覚め眠れない人々を描き出す、冴える幻想と美。9作目。

ごく短く綴られた物語の積み重ねは、深夜に起きる人たちと月を語る詩のような言葉でできている。夜に目覚めた少女や、マネキンや、眠れない一人暮らしの老女、若者たち、5人の少女窃盗団、作家になりたい男、酔っ払い、コウロギの歌、トイストーリーのように動き出す人形たち、こっそり外に出てみる子供がいて、周りの風景や森や、工場、コオロギの鳴き声や車の音や風の音、それぞれの夜を月が照らしていることがわかる。

今宵は啓示の夜。人形たちが目覚める夜。屋根裏で夢見る者の夜。森の笛吹きの夜。

海沿いの、南コネチカットの夏の夜、月が上ってきた。
息をしよう、眠っていたローラが起きて着替え始める。
外に出てやっと息ができる。

自分だけの場所が。戸外だけれど屋根裏みたいに密やかな、誰にも見つからない場所が。空に昇った月を彼女は見る。ほぼ真ん丸の、ただし一方の端が片方少し平べったく、誰かが指でこすったみたいに少し汚れて見える月を見ている。彼女は突然あそこに行きたいと思う。あの燃える白さの中に入って、下の小さな町を誰にも見られず見下ろしたい。

窓から庭を見下ろしている少女ジャネット。

雪の冷たさを偲ばせる光、青く澄んだしんと静かな空気。庭の静寂、この庭には静けさが満ちてきて、それがまだまだ大きくなってついにはあふれ出るのか。窓辺でジャネットは動くのを恐れ月を待つ

生け垣を超えて海で見た若者がやってくる。

ハヴァストロー39歳は決まった生活(記憶をめぐる実験についての記述)を繰り返している、本棚がぎっしり並んだ二階の屋根裏書斎からそっと下に降りる。大きな夏の月が見守る中、青いナイロンのウインドブレイカーを羽織って、もう16年間もミセス・カスコと話すために通っている。「記憶なんていったって要するに忘却の、削除の営みであるわけです、あるのは喪失だけ、減少、喪失、忘却だけです。嘘、すべては嘘です」彼は語る。「で、あなた信じるの?」「ええ、いいえわかりません」彼は三時になるとそこを去る。
森に入り、解放された少女に出会う。

盗んだカギで図書館に入る三人の青年、ソファーやカウチに座って、青年らしい話をする。幻の少女の胸の隆起や太ももの並木を旅した話をする、まるで経験したように。
ダニーは家に帰り月明かりでガレージの洗濯物の影が揺れる下で眠ってしまう。

マネキンはポーズの硬直が秘密の欲望を呼び起こす。彼女は解放を夢見る。
指がかすかに震え目を覚ます。
正体をさらすことはやってはいけないと知りながら夜の中に出て行く。

女子高生たちが街を荒らしている、些細なものを盗み、私たちはあなた方の娘ですと書いた紙を残ししばらく居間に座っていく。リーダーは<夏の嵐>と名乗っている。
少女たちは仮面をつけて居間の椅子やカウチにこしをおろす。
一人暮らしの女は少女たちに気が付く。見知らない客たちにレモネードを出し正体は知っていても知らないふりをする。私は夏の月の妹と名乗ろう。素敵な夏の世のお客さんたちに。
少女たちは夜に溶け、女はレモネードのグラスを洗う。

子供たちが寝室のドアを開けている。そっと夏の夜に足を踏み出して、遠く眠りより快い夜の音楽を聞いている。

マネキンと散歩をした男。
月の神に抱かれたダニー。
森の中の散歩から家に向かうハヴァストロー。
人形は動きを止め、ピエロは崇拝する形のままコロンビーナを見続ける。

月の女神が庭の馬車に乗り込み闇をける、笛吹きは合図の笛を吹く。

現代詩の中で風景が揺らぐようなミルハウザーの世界に感動した。


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