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黄金を抱いて翔べ

黄金を抱いて翔べ 読書

1987年の第二回日本推理サスペンス大賞の最終候補に「リヴィエラを撃て」が残った。第三回にこの「黄金を抱いて翔べ」で大賞を受賞、その後のミステリ界で人並外れた実力で一気に大きな作家の地位を獲得した。
「リヴィエラを撃て」も全編改稿して発表されたが、これが初めての長編小説かと思えるような、巧妙なスパイ合戦が読みどころで、ただそうとは言い切れない実に濃厚に書き込まれた物語が展開する。

さて、この「黄金を抱いて翔べ」は初期から今も変わらない高村ノヴェルを堪能できる、実に面白い作品だった。
特徴の、細かく照査された小道具、時々挿入される登場人物たちの人間らしい抒情、効果的な風景描写、長い間積んでいた埃の中から心に残る一冊が出て来た。

6人の仲間たちで、大阪中の島の、銀行地下深く眠る黄金強奪計画を立てる。そして溶けだしそうな関西気候、真夏の闇に紛れてうごめき、細かな計画がじりじりと進んでいく。

6人は初めから集まったのではない、大学時代の友人幸田が大阪に流れて来たのを主犯の西川が最初に目を付け、つかまえて仲間に入れる。

西川の知り合いの野田はIT会社の営業で、目当ての銀行も回っている。内情に詳しくつかえる。

幸田は馴染みのパチンコ店で、工大生の通称桃太郎(モモ)と知り合う。
モモのアパートが襲われ爆発から火事になり、彼を救って、野田が知り合いの通称「ジイちゃんの」部屋に預ける。
ピストルを持っていたモモは北の工作員に狙われているのではないかと推測する。彼のアパートの爆発は起爆装置などをちらと見かけたことがある、自製の爆弾だっただろうと見抜く。
工学の知識は、襲撃の必須だ。彼を引き込んで計画を練る。

ジイちゃんは、エレベーター操作の経験があった。
ホテルの窓から双眼鏡越しに土佐堀川、高速道路をとおして、銀行の駐車場の入り口が見える。上に向けると屋上の機械室が見える。エレベーターのワイア巻き上げのドラム装置が見える。
ジイちゃんは幸田の持つ何かに惹かれるものを感じる。

北川は、まず一帯の基礎、一時系統の中の島変電所を爆破。一帯に騒ぎの種をまき、中環にある銀行への分岐線を切る。
保安員を始末。エレベーターで地下へ、金庫から金の地金6トン(10億)を盗み逃走する。という計画のもとに手分けして綿密に日数を消化し、詰めていく。

実行の日、時は分刻みで過ぎていく。緊迫感とともに6人の動きが丁寧にかつスピーティに、思いがけない障害を絡めて最終章になる。

どこが面白いか。名画「地下室のメロディー」やトム・クルーズの「MI」や「オーシャンズ」の面々のことを思い出すが、何と言っても準備段階でのリーダーの知識、綿密な計画、敏捷な体力、知能。チームワーク。

高村さんのこの話の中には、それに加えて、一人ずつが背負っている重い運命や、それを引きずりつつ生きている、生き方、性格の違いも丁寧で入り込んでしまう。
わき役の、暴走族と北川の弟春樹の因縁の対決も、ハードな筆で軽快に書かれている。バイクにも詳しくてメカの解説も面白い。

又リーダーの北川をしのぐ主人公の幸田がいい。生きる日々は、すでにつき抜かれたような時間の跡が今では楽観的にみえるような暮らし方をしているが、幼いとき両親を亡くし、若い母は隣の教会に出入りしていたのを覚えている。その側に住んでいたが教会の火事に巻き込まれる。若い神父の僧服が今でも蘇る。フラッと関西にきて吹田に住み着いたのも幼いころ側に教会があったあたり。

出来るなら一度は冒険をしてみたい。それが実行できそうな、地下の金塊強奪。札では軽すぎる、夢のような現実に生死をかけた男たちの、裏にある世界も興味深い。

やはり映画で見る強奪事件より少し湿ったエピソードも含んで、それでいて厚みのある、重い細かい描写は、高村さんの実力をまざまざと感じた。
ワクワクと楽しみに読めて面白かった。

このあたりに勤めていたし、舞台になった銀行や会社も名前は違っても見慣れたところらしくわかりやすかった。久しぶりに地図を開いてジイちゃんがここで掃除していたのか。幸田の籠ったビルはこのあたりかなと、楽しんだ。


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