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楽園のカンヴァス



原田マハ

話題が盛り上がって読んだ気になっているが、書いておかないとそれでも忘れる。

高階秀爾さんの解説には、冒頭に

美術史とミステリは相性がいい。
犯罪の種類、複雑な謎、謎解きの玄人興奮、そして最後に真相という過程がよく似ている。

とある。

ミステリー要素も大いにあって惹かれるが、それよりもルソーの「夢」にまつわる話に加えて同じ絵がもう一枚あるという、それの真贋を判定するのも面白い、それにかかわる人たちの造形と、表紙にもなっている「夢」とルソーを語る原田さんの筆に最後まで気が抜けなかった。

倉敷美術館の監視員をしている早川織絵はかってルソーの研究者として学会でも知られた存在だった。
フランスに留学して美術史を学び、若くして論文が認められ博士号を取得していた。
訳あって、今は母と娘とともに倉敷に住んで、ひっそりと監視員をしている。気に入った絵の前に座って一日あかず眺めるのに幸せを感じている。
そこに、隠棲している富豪で名高いコレクターから招待状が来る。一方ニューヨーク近代美術館で、アシスタント・キュレーターをしているティム・ブラウンのところにも手紙が届く。実はその招待状は館長のトム・ブラウン宛だった。それはコレクションの中にあるルソーの絵の作品鑑定依頼だったが、彼はルソーの研究者だったし、常にトムの影にいることについて不満があった、ぜひともその絵が見たい。彼は野望にまけ、一字違いのトムに成りすました。

7日間、織絵と交互に誰が書いたとも知れないルソーに関する手記を読む、「夢」と全く同じ大きさと構図で描かれた絵には一点異なった部分があった。その絵を「夢をみた」と呼ぶことにした。
手記には、ルソーの悲惨な暮らしや、モデルになった女性に対する思いや、最初に、ルソーの絵は時代を先取りする傑作だと認めたピカソや、仲間達との交流の様子が書かれていた。

ルソーは今に知られるように貧しく、基礎を無視した平板にも見える画風で、子供の遊びのように見られていた。
彼はカンヴァス代にも事欠き、古道具屋でかった絵の上に書くことも多かった。
そんな逸話から、「夢をみた」はブルーピカソの上に描かれたものではないだろうか、という疑いが生じた。
構図からも偽者かも知れないという疑いがあった。

選ばれた二人のうち本物と断定したものに絵を譲るという。手記からその根拠が見つかるのだろうか。

面白かった。原田マハさんは倉敷に住んで大原美術館に親しんで育った。その後美術館の設立準備室に勤め、ニューヨーク近代美術館に研修にも行ったという、絵が好きで造詣も深くこの作品が出来たそうだ。
物語としても父のない娘と母親との家庭、過去と縁を切った生活、ルソーノ絵の真偽を探る中で、敵対するはずのティムとの暖かい交流など、虚実ない交ぜになった豊かな話に引き込まれた。
再会と題する終わりの部分は胸が温かくなる幸せな閉め方で、殺しのないミステリといえるかもしれないし、「夢」という絵の鑑賞眼を養いながら、読んだ後は美術書を開けてみようかと思うほどルソーが好きになった。

同じ時代に生きたピカソはルソーより十年ほど後になくなっている。仲間の中に登場するアポリネールも、ほ~この時代だったのかと知ることが出来た。

積んだ本の中ほどに埋まりかけていた。ヤレヤレ。


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