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百年の預言〈上〉



高樹のぶ子

オーストリアに赴任した外交官の真賀木と日本のバイオリニスト走馬光子との恋愛小説。
それに東欧革命やウクライナのオーボエ奏者が持ち出した楽譜の謎解きが絡んでいく。

「百年の預言」 上下巻

ウクライナ共産主義の独裁政治が末期を迎えて、恐怖政治に変化した頃、1986年が物語になっている。

亡命してきた青年は「百年後の愛しい羊たちへ」と題された家に伝わる手書きの楽譜を持っていた。
彼は国民的な作曲家の手書きの楽譜なら、高く売れるかもしれないし、今になって内容が解明されたなら、なにか(国の行く末にとって)救いになるかもしれないと考えていた。
それを光子が買い取る。

真賀木も、子供時代に光子と同じバイオリンの先生に師事したということもあって、その楽譜に興味を持つ。
真賀木は最初の妻を亡くしてから、光子の情熱を素直に受け止めることができない。
光子はウクライナの青年と肉体だけの関係を持ち三人の複雑な運命が展開する。

真賀木は楽譜を解明しウクライナに魅せられてしまう。そして次の赴任先にウクライナを希望して、革命の渦に巻き込まれていく。

東欧の、国境線の複雑な国々が持っている、難しい政治が絡むということには、あまり実感は湧かないが、人間関係と、百年前のいわくのある楽譜とのかかわりが興味深くて、非常に変わった面白さがあった。
祖国に伝わる音楽と楽譜の繋がりが少しずつ解明されるところも面白い。

高樹のぶ子さんという作家は、恋愛を軸にして人生を見る、恋愛小説家だと思っていたので(恋愛小説は少し苦手なので)読んだのは初めて。

これを読んで骨格の大きな小説家だと思い、またこういった作品に出会ったら読もうと思っている。


お気に入り度:★★★★☆
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