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鬼の跫音

鬼の足音 読書
鬼の跫音 道尾秀介

これはじわじわ不気味さが入り込んで、そこから恐ろしい出来事が展開する。道尾さんらしく負担がなく軽い、面白い作品だった。
鈴虫
大学時代のこと、ずっと好きだった杏子は友人のSと付き合いだした。私は嫉妬した。壁の薄い隣の部屋でSは杏子と会っていたが、違う女の声も混じるようになった。崖から落ちたSを河原に埋めたのは私だ。そばで鈴虫が見ていた。Sが死んで杏子と結婚した。息子が学校から鈴虫をもらってきた。籠を覗くと鈴虫が私を見て何か呟いた。秋が来て鈴虫は死んだ。メスはオスを食い殺すと息子にも教えてやった。11年ぶりにSの死体が見つかった。死体にかけた私の背広には学生証も財布も入ったままだった。刑事の質問が続く。

犭(ケモノ)
部屋の椅子が倒れて足が取れた。刑務所の作業場で作ったものだったが、折れた足に落書きが彫ってあった。「父は屍  母は大 我が妹よ 後悔はない」と読めた。その後にSという名前があった。
Sを検索すると、彼は過去の事件で無期懲役になり、その後自殺していた。ボクは調べたSの村に行って事件のことを訊ねる。そして椅子の足に書いてあった文字の意味に気がつき、Sの恐ろしい悲しい運命を知ってしまう。
僕は家の中では誰からも相手にされない、出来損ないだと思われていた。優秀な家族はボクのことを気にもかけない。
Sのメッセージを解いたボクは、誰も待ってくれていない家に帰る。

これは最後を読むと、途中で何度も作者の意図が表れた文章に出会う。ああ巧みな伏線だったのか。これは全く非の打ち所がない一編。

よいきつね
20年ぶりに取材をかねて帰った村は稲荷神社の秋祭りだった。
高校生時代、悪友に乗せられ、ふざけ半分で女を空になった神輿蔵に連れ込んで犯したことを思い出す。見張り役の仲間がいたがうまく現場から追い払われてしまっていた。神輿蔵の一件は黙っていたので騒ぎにはならなかった。
橋のたもとに未だ神輿蔵はあった、そこで自分に似た男を見かける。

暁闇、日が落ちた後のかすかな空の明かり、そんな不思議な時間には現実と幻が混じり、自分と他人の境も朧になる。長い竹竿の下で伝統芸能の「よいきつね」が面白おかしく演じられている。過去と現在の境、祭りの夜は見えないものが見えることもある、隠したものが現れることもある。
そんな夢幻のような一夜の中の不思議が、静かに恐ろしく書かれている。これも秀作。

箱詰めの文学
これは技巧的な一編。
作家と友達のS、彼が作品を盗んだのか。作家の盗作か。原稿は泥棒が盗んだのか。泥棒はSの弟だという。
ないはずのネコの貯金箱を盗んだとその泥棒は言う。中に紙がたたんで入れてあった。「残念だ」あの原稿用紙の文字だ。
過去のことは過去にして、泥棒だったSの弟とSの墓参りに行くそして真相を知る。

謎解きクイズのような形式で引っ張られる。

冬の鬼
仲良く暮らしている夫婦の秘密。
妻の日記が遡るにつれて二人の秘密が明らかになる。

谷崎の「春琴抄」を思わせるような、それ以上に不気味な恐ろしく悲しい話。

悪意の顔
人が入ってしまう絵の話。
はじめは悩みを閉じ込めてくれる絵だった。苛められっ子は臆病な心を絵に移し替えて貰った。
その絵を描いた人の妻は絵に入りたかった。

絵で救われることもある不思議な話。

もう一度読んで積読整理作戦中


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