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キングの死



ジョンハート

ハートの話題になったデビュー作。やはりじっくり読ませて厚みがある。

ジョン・ハートは1965年生まれ。
この本は2006年発刊 当然パソコンも携帯電話も出てくる。海外のミステリは、過去の名作、というのを最近読んでいるので、一気に今の世界に戻った。
分厚い文庫で600数ページ

ワークは弁護士の父が持つビルの中に、自分も事務所を持つ弁護士だった。
父親は極貧から身を起こして、今では町で知らないものはない最も裕福で、有能な成功者だと見られていた。
だが、家庭では低俗な見栄っ張りで、傲慢な専制君主だった。

ある夜、不幸な結婚から自殺未遂を繰り返す妹(ジーン)が、療養施設時代に知り合った女性と同棲していることを知った父が、それをとがめて争っていた。とめようとして入った母に、横に振った父の腕が当たり、母は階段から落ちて死んでしまった。

父は事故だったといいくるめ、家族もそれに同意した。

亡くなった母は病院に送り、父に言われるままに、妹はその後すぐ自分の家に、ワークは幼馴染の愛人の元に行き早朝自宅に帰った。
父に電話がかかり、出て行ったまま帰らなかった。

そしてそのまま父が失踪し、一年半が過ぎた。

仕事で法廷に入ろうとしたワークに、父が見つかったという知らせが入る。
父は胸と頭を撃たれて殺されていた。

事件の夜、ワークは自宅に帰り朝まで一緒にいた、という妻の証言も、彼を犯人でないとする根拠にはならなかった。
父の弁護士から聞いたところ遺産は莫大な金額であることがわかる。
父の遺言は当然それまで知らなかった。しかし仕事柄もあり、それは通らない話だと思われた。

ワークは自分が犯人ではないと断言できる。
そうなれば考えられるのは、不幸な星の元に生まれた妹のジーンだろう。
この妹だけは命に代えても救わなくてはいけない。

彼は、自分の無実を信じない(同業者を含め興味本位で情け容赦のない)人々の中で、数少ない協力者を頼りに捜査を始めるが、次第に追い詰められていく。

ハートの作風は、人物の行動の裏に、その心理がにじみ出るような情景(町の様子や細かいしぐさ)を書くことで、より読者の感覚を増幅させる。情感豊かな筆致で物語りに引き込まれる。

ストーリーは家庭の暗部で、他人に知られたくない部分を描き出す。主人公の父親の傲慢な生き方に縛られる家族の苦しみや、自分を見失いたくないというそれぞれの葛藤が、事件の解決に向かうにつれ、露わになり闇が深まっていく。

ワークは成長過程で味わい続けてきた、不合理な父の縛りから逃れ、妹とともに自立していく、家庭、家族の中のミステリでありながら、考えさせられる部分も多い。

他の登場人物も、重要な場面で心温まる役割をこなし、話を盛り上げ、解決に導いていく、とても面白く一気に読んでしまった。


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