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シャドウ



道尾秀介

この「シャドウ」はよく出来たミステリアスなストーリーで、主人公の凰介は小学校五年生である。今の小学生は知識の点でも世間知においても、このくらいの思考は出来るものだと思う。それだけに彼の悲哀がよくわかる

「死」というものがぼんやりとしか理解できなかった鳳介が、次々に起きる「不運」に翻弄され、周りの大人が死んでいく中で不幸の根源にたどり着く。

解説にも出てくる有名な「向日葵の咲かない夏」は後半が少し安易に幻想寄りにまとまった感じがしたが、この「シャドウ」は、構成も登場人物も、読者を意図通り困惑させるストーリーもよく出来ていた。

登場人物の書き分けが、人物ごとに独立した見出しになっていて、時間的に重なることもある。
それぞれ本人にしかわからない込み入った事情が、出会って重なるとき、少しずつ謎が解けていく。
構成が、すばらしく優れている。

小学校五年生の凰介は、母を癌で失った。
通夜に父、洋一郎の友人で院生の同窓生だった水城とその妻が来た。母も水城の妻とは大学時代の同級生だった。
子供の亜紀と凰介もクラスは違うが、同じ学年だった。
水城は医科大学にある精神医学の研究室ではたらいている。付属の大学病院神経科の医師でもある。
その水城の妻が、夫の研究室棟の屋上から飛び降り自殺をする。夫が窓越しに落ちる妻を見たような気がする。
夫婦は水城の嫉妬から長く不和であった。そのことが自殺の原因となったような妻の遺書が見つかる。
折悪しく、娘の亜紀も交通事故にあう。

父の洋一郎の神経は総合失調症に侵されたことがあった、それはすでに治ったものと思われていたが、最近になって不審な言動を繰り返し、凰介には、また病気が再発したように思われた。
父の病気のことを、信頼している教授の田地に相談に行く。

凰介の見る不可解な夢に暗示されるような出来事がある。
亜紀の秘密の過去に洋一郎はかかわっているのだろうか。

このあたりが旨い。

それぞれの過去と現在が、父親の病気に関連して展開する。
輻輳した感じがする物語の進行は、作者の語りの巧さで後半になってその意図が分かってくる、面白い。
「シャドウ」ズバリなタイトル。


お気に入り度:★★★★☆
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