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乃南アサ

ミステリの部分もあるが、少し砕けた家庭小説で、両親をなくして残った三人のきょうだいの繋がりがメインになっている。

長男俊太郎は25歳、大手商社を三年でやめ、今は持ち家の管理人生活。耳の不自由な妹が生まれてから、母の愛情は全て妹に移ってしまったという、心の底に意志では解決できない小さな寂しさと、自己矛盾を抱えている。
お姉ちゃんは結婚を前にして、踏ん切りがつかないでいる。

俊太郎の古くからの友人で、有作という新聞記者が一家の心の支えになっている。

末の妹、麻里子は耳が不自由に生まれついたが、母親の献身的な教育で、ゆっくりなら言葉も分かるが、発音が少し独特で、余り早く話せない。

通り魔があらわれる。若い娘を狙って持っているかばんをひったくって、裂いて捨てるというもので、家の周りに頻発しているので、俊太郎も気が気ではない。
記者の有作はスクープ記事にしようと張り切っているが、姉妹の帰宅時間も気になる。

ところが、電車のなかで追いかけられた男が、麻里子のかばんに鍵を入れていった。
それが原因ではないかとうすうす気がついてくる。
しかし、高校生になった麻里子は重荷になっているような自分が、兄弟に頼らず自立していることを知らせたい、出来れば自分で解決してみたいと思う。
それで「鍵」のことも相談できないでいる。

警察も捜査範囲を狭めていたとき、殺人事件が起きる。殺されたのは麻里子のかばんに「鍵」を入れた男だった。
だがその後、殺人事件が続いて起きる。
「鍵」を持って一人で聞き込みを始めた麻里子は、犯人とおぼしい人に面会に行く。

麻里子の行動の影で、俊太郎は兄としての責任に目覚めていく。
これが家族が徐々にまとまっていく切っ掛けだった。

麻里子が襲われて、事件を最もはっきりと見てきた勇作が現場に駆けつける。

それはまるでサブスートーリーのようで、三人+1のタッグが事件を解決する。
怪我をした麻里子を気遣いながら、その後それぞれの生活を見直し新たな出発をする。

読みやすい物語。ちょっと一休みに読むつもりのミステリーの一冊だったが、
乃南さん好きには柔らかすぎのようで、もう一味スパイスを、という感じだった。


お気に入り度:★★★☆☆
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