紅玉いづき
人はもういやだ「ミミズク」になってしまいたい少女が、自分を食べてほしいと言ってきた。そう言われても強い魔王ばかりではない。
「たまにはこんなのどうでしょう」と言って子供が回してきた。次のこともあるし、読みやすいし、すぐに読んでみた。
ファンタジックで心優しいお話だった。お天気がいい休日にふさわしい、現実離れをしたライトなお伽噺の世界が広がっていた。
電撃大賞受賞作、電撃文庫と言うのは、門戸の広い印象を受けた。
人間の世界で、奴隷でも最下層の仕事をしていた少女は、手足に鎖をつけたまま森に逃げてくる。そこは魔王が治めている森だった。彼女は自分をミミズクだと言って、魔王に食べてもらいたいと言ってきた。懇願してみても、魔王は人間は食べないと言って断る。少女はなぜかその魔王が恐ろしくない、できれば食べて欲しいと思いながら過ごすうちに、次第に馴染んでいく。
森がある国を収めている王様は魔王を捕まえて、殺してしまいたいと思っていた。命令を受けた聖なる剣士と呪術師たちは森を襲って魔王の住処を焼き払ってしまう。捕まった魔王を助けるために少女は刑場に行く。
人間をやめたくなるくらい、ミミズクだというしかない、悲惨な過去を持っている少女の額に、奴隷の番号が付いていた、魔王はそれを記憶を消す印に変える。
魔王の過去も、絵を書く趣味も何か淋しく、少女も過去の記憶は消えたが、何か物足りない。
城には生まれながら手足の不自由な王子もいた、二人は友達になっていく、ここらあたりも、夢の様でもある。
呪術師が総力を挙げて少女の記憶を回復させようとする、そしてかすかな記憶が甦り、魔王の元に行く。
と言うあらすじだが、騎士や魔法を扱う巫女も登場して、中世ロマンの気配やラブストーリーの側面もあり、王様と王子の親子の情愛も絡む。
騎士と巫女という子供の持てない夫婦が少女を可愛がり引き取りたいと思ったり、何か善意に溢れた話は、大人が読む童話のようで、たまにはこういう別世界で遊んでみるのも楽しかった。
お気に入り度:★★★★☆
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