追い詰められ、復讐の塊にもなる。人々のドライな行末に、読んでいると次第に気持は救いようのないダークな所に降りていってしまう。最低のダークだ。生きるためにこれもありだ。
ミロは4年後に出所する村瀬を待っていた。しかし偶然に、彼が一年目に自殺していたこと知り、生きる気力を無くすほど衝撃を受ける。
「頬に降りかかる雨」ではミロが告発して、村瀬が捕まった。その頃は彼への執着がそう強いとは思えなかったが。ここで「ミロ」は命綱を手放したのか。
彼女は村瀬から自分宛の手紙があると知り、預かったという父(村野善三)の元に行く。
だが父親はそれを破り捨てたといって見ることが出来なかった、今までの養父に対する思いと、手紙を無くした恨みで争い、狭心症の発作を起こした父を見殺しにした。
驚いたことに父親は女と暮らしていた。その女久恵は、ミロと同じ年で盲目の整体士だった。
金に困っていたミロは、善三が久恵に残していた300万円を奪って逃げてしまう。生きるためだ。
久恵は愛していた善三と金のためにミロを付け狙い始める。
親友だったトモさんは同棲していた小説家の凋落とともに商売も不振で生活費にも困リ果て、かつての気取った生活スタイルはもう見る影もなかった。
ミロは知り合った韓国人に偽パスポートを作らせて韓国に逃げる。ついた韓国でその愛人になり身分も韓国人に成る。ミロは生きるためにますますすさんで行く。
コピー商品を売る愛人のために客引きをするが、善三の現役時代の相棒に見つかり、追ってきた久恵にも襲われ、愛人は下半身不随になる。
行き詰ったミロは彼とともに東京に舞い戻ってくる。そして、韓国ヤクザに追い詰められレイプされ、その子供を生む。
もう何もかも壊れてしまい、「ミロ」の閉塞感に同化して、読むほうもこのシリーズもこれで終わりなのだとつくづく思う。
ミロの養父との血縁のない奇妙なつながりや愛憎は、今までの流れからは理解できない部分がある。
桐野さんはついに「ミロ」の終焉、陰の時代を書いたのか。様々な背景を持つ登場人物が例外なく深い闇の底でもがいている。養父という血のつながりのない親との確執、縋れない「ミロ」の孤独が深く、すべてが崩壊したかのように書かれている。
フィクションとはどういう部分も含めて作者に沿っていかなければいけないのだろう。私は嫌いではない桐野さんのこういう本を読んでみて、読者だとこれもありなのだろうと思い、生きるためにハードにあがく「ミロ」を受け入れた。このミロの執着もいいのでは。シリーズは最後まで見届けなくては。
息子を連れて生きようとする「ミロ」の強さを書いたことで一区切りにしたこのシリーズを、今読み返して、若いミロにない新しい生き方を見たのかもしれない。
韓国の愛人が経験した光州事件の記述が圧巻で読み応えがある。ミロを追いながら、光州市民の当時の実態を書きこれは凄い、力が入っている。ミロについては開き直り、「光州事件」の方が心に残った。
だから★4