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九月が永遠に続けば



沼田まほかる

気が滅入るような出来事が続く。子供の失踪、浮気相手の事故死、別れた夫の娘の自殺未遂、個々の出来事は探せばいくらでもあるだろうけれど、こう不幸な出来事が重なるというのも珍しい。

前に一度読もうと手に取ったが置いてあった、ユリゴコロの不思議な雰囲気に惹かれて読み直すことにした。

佐和子は離婚してから8年、一人息子と二人暮らしだった。夫からは時々気にかけているような電話が来る。失効していた運転免許を取り直すために教習所に行ったが、そこでであった教官は、夫が電話で話していた、娘の冬子が付き合っているという犀田だった。
そのうち彼とラブホテルに行く仲になる。

息子の文彦は高校三年生で、近所の同級生のナズナと親しくしていた。ナズナの家は父親だけで、喫茶店を開いていた。文彦と二人で時間があると手伝ったりしていた。
寒い夜、文彦がごみを捨てに行ったままふっといなくなった。寒い夜にサンダル履きのままいなくなってしまった。
不安が増して落ち着かない日々が過ぎていった。別れた夫にも電話で知らせるが何日経っても行方が知れなかった。

突然犀田がホームから落ちて轢死した。冬子と大声で言い争っていたが、誰かに押されたように落ちたという。
目撃者もはっきりしないので冬子が何度も呼び出されて事情を聴取されるが、事故として処理された。

夫は再婚していた、娘の冬子は下校時間に文彦の学校に来て、二人でしばしば逢っていたという。文彦は冬子が連れ子で血がつながっていないことを知っていたが、冬子は異父兄妹だと思っていたらしい。犀田に付きまわれた冬子を助けるために冬彦がやったのではないだろうか。

前夫・雄一郎は精神病院の院長だった、佐和子は勤めていて知り合い結婚したが、雄一郎は患者だった亜佐美と再婚した。亜佐美は少女の頃から何度もレイプされ精神が崩壊していた。
初めて患者で入院したとき佐和子もその場にいて、目を覆うような亜佐美の異様な姿を目撃していた。だが夫は優しく治療を続け、ついに亜佐美にとらわれたように結婚した。

連れ子の冬子もそうだったが、親子ともにオーラを纏ったような蠱惑的な美しさを備えていた。雄一郎もその美貌に惹かたのだろうか。

亜沙子は結婚後徐々に回復しているように見えた。妊娠もしたと言う。冬子の話で、雄一郎と亜佐美の異様な結婚生活の様子が暴かれる。どこか常に精神状態の危うい亜佐美と、雄一郎の生活は破綻して、亜佐美が兄の家に帰ることも多くなり、不在の日も長期化していたという。

文彦はどこにもいない、消えてしまった。亜佐美も兄のところに行ってしまった。
冬子が睡眠薬を飲んで危篤状態になった、雄一郎は自分の病院を避けて近くに入院させた。

佐和子は心労で衰弱してきた、ナズナの父が無神経に入り込んで世話を焼きだす。

読者はこんな中に放り込まれるが、読むうちにそれぞれの運命が次第に闇の暗さが増してくるような、そんな物語に引き込まれる。
暗い中で見ると人々は異形にも見えるくらい美しく恐ろしい。そして生きている。

結末は不幸のなかからも、薄い光が射すようだった。

震えるような、恐ろしさと暗さを読んでいると、不幸までも心ならずも共有させられる、謎が謎を積み重ねる文章を追いかけていく、沼田さんの力の入った作品だった。
やはりこれもミステリだとしたら飛びきりのイヤミス。
正しくはホラー・サスペンスというらしい。旬が過ぎて読んでも暗さが共有できる作品になっている。だから沼田さんのこういう作品を読んでも嫌いにはならない。これが3冊目だった、次は「彼女がその名を知らない鳥たち」かな。

ユリゴコロ
猫鳴り


お気に入り度:★★★☆☆
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