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シャドー81



ルシアンネイハム

こういう始まりでは最後まで読まなければ、と誘い込まれる。確かに読み継がれる価値がある。

コールサイン「シャドー81」が表紙にあるような形でロサンゼルス発のボーイング747型機をハイジャックする話だけど、肝心なストーリーが裏表紙でも分かる。これがなければナと思ったのは私だけだろうか。と言う冒頭からの愚痴はさておく。

発刊されたのはベトナム戦争がパリで締結されてすぐ、著者はフリーの新聞記者で、現場に強く、その上パイロットの資格があり、航空機にはもちろん詳しい。面白くないわけがない。
第1回の「週刊文春、ベストミステリー10」で内外を含んで1位だったそうだ。読んで面白ければ1位も2位もないけれど、推理作家協会の作家の方々が文句ない賛辞を贈っている。
でしょうでしょう。戦争・冒険・金塊強奪・逃走劇・犯人像・航空関係者の敵味方を越えて生まれる連帯感・アメリカ大統領・国防長官・ペンタゴン・陸海軍長官・地区警察官の右往左往。新鋭爆撃戦闘機と古すぎる双発水陸両用航空機。もうこの言葉だけでも、わくわく要素はMAXで、それが最後まで続く。

まず、ベトナムに投入された最新鋭のTX75E戦闘爆撃機、垂直に離着陸でき翼をたたんで格納できる。爆弾はもとより、空対空、地対空ミサイルを搭載、ロケット弾も機関砲爆弾搭載。、これはどこにも知られたくない秘密兵器・火災兵器だった。
これに超エリートしか乗れない。

これが爆撃され行方不明になる。と言うのが幕開き。

そして、香港を舞台に細心緻密に計画されたハイジャック劇の前哨戦が始まる。金塊強奪用の船は古い貨物船を改造、中に漁船を格納、ゴムボートも完備。ほかにも必要物資と、航海用の様々な計器と使途不明のもろもろ。

犯人は201人を人質に旅客機の背後、死角に入る。
管制塔主任と機長は犯人が伝える指示に従いつつ打開策を講じるが、人質の保護の前にはなすすべもない、犯人は目的は別として紳士的で指示に無駄がない。

犯人たちは2000万ドルの金塊の在り処も、補助に使う双発ジェットの倉庫も調べ済みだった

燃料の限界が近づき、終盤を迎える。

どうして最新鋭の爆撃機が墜落と同時に爆発せよという指令があったとしても、木っ端微塵に吹っ飛んでいたか。

読み始めから次のぺージをめくらずにはいられない。

最初に、姿を隠して用具をどうやって入出港書類に記入が必要な船、電子機器まで調達してパスしたか。
貨物船に漁船を格納し、なおゴムボートや電子機器まで整備し、あっさり大西洋を目指したか。
船に乗っている犯人一味のグラントが時間待ちの間に過ごす奇妙な趣味の時間も愉快。

着陸後地上の囚人護送車でダイナマイトを巻いたサンタが、護送中の警官に銀行・宝石店・為替交換手などを襲わせる。警官も嬉々としてその指示通り動き出す心理が可笑しい。

一方離陸間もなく意外な方法でハイジャックされた機内コックピットの冷静沈着な対応。
乗っていた次期大統領候補の場違いな自己PR。
機内の様子も気楽でいささか滑稽。

公に出来ない事情を持つベトナム戦争。かさむ軍事費。過激な解決案に対する大統領の苦慮。
中にちりばめた作者のユーモアも光る。長時間の緊張のうちにウォーキートーキを使って話している間に生まれる連帯感が、時に怒号のやり取りが、相手の心に響くなど、面白要素一杯で、少し長いが一気に読めた。
解説で「ジャッカルの日」「鷲は舞い降りた」などにつづく作品だと、読みながらもうこれこそおおいに気分転換の本、愉快な気分になった。これが読むには最高のエンターテインメント。

映画化されない事情も、そろそろ解禁してもいい頃かな。

「鷲は舞い降りた」は読んでない、そのうち。


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