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刺青殺人事件 新装版



高木彬光

やはり好きだな探偵小説。初めて読んだが、神津探偵の神がかり的謎解きも拝みたいほど鮮やかで、古くて新しい。怖いもの見たさというが、見た目化け物ではないところがホラーと一線を画す。

「ホンノワ」で古今東西 名探偵を読もうというテーマが出た。今も継続中です。

だてに最近は悪乗りしてミステリ好きを言いふらしているわけではない。ただ好きというにはちょっと歴史は浅いが、読んだことがある名探偵くらい調べればぞろぞろ出てくるにちがいない。国内外ベスト10といわずベスト50で行こう。というので検索してみたら、もう言わずもがな、散々だった。知らない探偵ばかり。やっぱりね。山は高くて海は深い。
おまけに国内の御三家の中で「神津恭介探偵」を読んだことがなかった。
あれ?そうか、推理小説でなくて探偵小説かな、と「検索ワード」のせいにしてみたが結果は読んだことがなかった。
探偵は和服で下駄かと思ったら、スマートで6か国語を話す白皙のイケメンだという、やっぱり読んでなかったわ。

そこで高木彬光のデビュー作「刺青殺人事件」から神津恭介さんにお目にかかろうと、発行順に三作選んでみた。すべて舞台は敗戦直後、まだ世の中が収まりきっていない時。だから戦前の探偵小説臭がプンプンだった。

まず江戸川乱歩に認められたという、そうでしょう、なんか味といい風味といい戦前から受けついた当時の流行はそのまんま。気持ち悪い、奇怪な殺しの手口も、ドロドロっと見世物小屋から出てきてもおかしくない仕組みになっているところも。
ストーリーも、トリックにも並みでない意気込みが感じられた。第一作。

そして高木さんの「あとがき」がある。三週間で書き上げたというこの作品にかけて成功したいきさつが、文章に作り物ではない迫力があり、(これはファンにはよく知られた話らしいが)初読みにはとても興味深かった。

事件は、東大医学部の標本室から始まる。そこには絢爛華麗な刺青をした皮膚がトルソに貼り付けられ、または広げられて保管されている。事件はこういう奇怪なものに憑りつかれ収集癖がある人物が登場するところから始まる。身の毛がよだつ描写が続くので、深くは考えないで読む。

ある名人彫師の三人の子供が、みんな競って父親に見事な刺青を彫ってもらう。そういう社会に住んでいれば痛みに悶えながら背負った絵は見せたくなるほどの出来で、体に巻き付く大蛇の「大蛇丸」も「蝦蟇に乗った児雷也」も「綱手姫」も背中に付いて妖しく動く。三すくみの図柄だった。

刺青を見せ合う宴で、白く輝く素肌に掘られた見事な刺青をみて人々は息をのんだ。
殺人はそれに続いて起こり、歌舞伎から来た浮世絵の豪華な図柄を残して首が消えた。

一枚の写真が双子で刺青がある姉妹の秘密を語る。復員してきた兄の居場所も分かり、事件はもつれ、そこにあわよくば死体の皮が欲しいという博士まで加わる。

刺青に少し詳しくなり、皮膚は保存できるのだという現実にしっかり気が付き、背中のゾワゾワ感を忘れることもできない間に、洋行帰りの神津さんが謎を解いた。

高木さんが心から尊敬して認めていたという横溝正史の世界が、新しい話をまとって迫ってくるような、気味の悪い恐ろしい作品だった。

それでも後二作はしつこく読んで卒業にする。


お気に入り度:★★★★☆
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