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旅のラゴス



筒井康隆

丸く輪になって異動する転移、人や動物の心と繋がる同化、念じて空中を飛ぶ力などSFらしい発想も効果的で単純な物語の中にある夢や希望が、窮屈な人生の中で見る、小さな夢の物語になっていた。

ラゴスは北に向かって旅に出る。その途中の出来事や目的地についてからの生活などがやはり愉快な筒井SFだった。

彼の旅の目的は、北の大陸に先人たちが残した文化が、膨大な書物になって盆地の建物に眠っているということを学校で習い、それを読むことが目的だった。

今ある転移、同化、予知などの能力は先人が滅びた後に獲得した人々の智恵だった、そうした力を使いながら北の大陸に向かう。途中に出会う壁抜け男や、似顔絵書き、時には盗賊に会うこんなエピソードを挟みながら北の大陸にたどり着く。

語り部の老人にあい、その話から書物を探し当てる。
不思議な壁に囲まれた建物の中に書物が保管されていた。先人が滅びたのは、進んだ知識があってもそれを使う機械を作ることが出来なくなったからであり、発達した科学知識があっても材料資源や装置などが不足していたのが分かる。現状にそぐわない理論はやはり机上のみで終わる。それを支える資源はいつまでもどこにでもあるというわけではない、いつか高度で便利な生活は底をつく。

ラゴスは書物を筆写していくが到底追いつかない、旅で知り合った子供が成長するほどの時間が過ぎその子供が訪ねてくる。彼は、言葉を漏らさず記憶再生する特技があった。ラゴスは朗読して彼に覚えさせる。

そこで生えていた名もない赤い実がコーヒー豆だということを知る。それを売って盆地の国は栄え王国になる。国ができ指導者が生まれ国同士の富の格差が生まれる。
筒井作品の濃いSF性は余り感じられず、経済が潤い、国が栄え小さな村落から、体裁が整い政治も始まる。
しかしラゴスはここにとどまることはできない。帰るべき国があった。

北の王国を出て、南大陸の我が家に帰ってくる。そこで、旅の知識を使って文化を勧める。彼はその知識で尊敬され崇拝されるが、嫉妬や裏切りもある。父と兄とは不仲であり、兄はラゴスの知識を喜ばなかった。

ラゴスの心は世界を歩いて自由に暮らすことに向かう。父の書斎で見つけた放浪の画家の絵の中に、旅で心惹かれ今も忘れられない少女の成長した姿を見つけた。

北で学んだ知識、主に農業の知識を書物に書き残してまた旅に出る。

ラゴスは北の新しい国で結婚もする、しかし故郷に帰って知識を伝えたりする。だがそれはいつの間にか窮屈な社会のしきたりや人間関係に縛られていることに気がつく、ついにそこから開放され孤独の中で生きていく自由を選ぶ、一度限りの生き方として、もし出来れば、勇気があればそうして生きること、成長した少女の姿を求めることが理想的でとても美しく感じられる。

<読みながら本棚整理大作戦>


お気に入り度:★★★★☆
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