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最後の命



中村文則

中村文則の作品に共通する、心の暗い部分に埋まりそうなテーマに共感しながら、どこか反社会的な生き方をする登場人物たちにやりきれなさも感じる。

読んでみた作品はストーリーの流れに乱れが無く、減速する箇所もなく、感じるはずの抵抗は少なかった。

少年から青年にかけての性衝動に付きまとわれた生活は、全て小学生時代に偶然見た、知的障碍者の女がホームレスたちに犯されていたことに始まる。
その残酷な風景が、ホームレスたちとの共犯じみた原風景になって脳裏の底に沈んでいて、常に顔を出す。

友達だった二人の少年が同じ事件を、細い隙間から見、その角度でみた場面の違いがそれぞれに痛ましい。この記憶に付きまとわれながら、二人が別の人生に分かれてしまったあとも生きていかなくてはならない。

しかし二人の成長期に密かな事件が原風景になって捉えられてしまった後では、頭にこびりついたような性という幻影に人格を覆い尽くされ、支配されていく。

人の暗部を少年の性を語ることで、暗い闇を背負った二人の男が如何に生き、それを受け入れ抗い、どこにたどり着いたか。
人の原罪に迫る悩みを、生活全体に塗り広げ、作者は解決することを登場人物に任せた、それがいかにも救いようのない作品だった。

会わなくなってしまった後は、闇に流され立ち直ろうともがいていることをお互いに知らなかった。その二人が偶然出会い、お互いの過去と未来を見つめあう。

やはり、自分を救うのは自分でしかなく、深みに流されてしまった一人は自分を捨てた。

助けのいる女を伴侶にして、生き続けようとする一人が、やっと薄闇が見えてくるような生き方に向かいわずかな救いが見える。

若い中村文則の描き出す暗い人生シリーズの中で、心に残る一冊だった。

子供の頃に受けた衝撃から解放されるには、答えは闇にある、そこにある暗闇が、現代の象徴のように思え、浮かび上がる心と沈んでしまう心、そこから自分を救う痛みが耐え難く暗い。


お気に入り度:★★★★☆
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