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月と詐欺師



赤井三尋

愉快過ぎる、爽快なコンゲーム、そして復讐劇。毒を以て毒を制す作戦、すぐに読了。終章まで一気に読める、積本を整理しようと思ったばかりに見つけてしまって、ついでに読んでしまったが、久々に時間を忘れた。

時は、戦後の混乱期。
何とか財閥の末席に名を連ねている灘尾儀一朗は、米穀商の娘に目をつけた。娘を自分のものにするために悪辣な仕手戦を仕掛けた。

世間にも認められるほど手堅い商法で財を築いていた米穀商は破産し、灘尾に囲われた娘は自殺した。

一高に通っていた長男の瀬戸俊介は、両親の死後退学し東北の寺に入っていたが、姉の遺書が届いたとき、彼は復讐を決意して還俗し、大阪に戻ってくる。
そこで、父の唯一の遺品を古物商に売る。

知恵を貸したのは、偶然知り合った春日という自動車修理業の男だった。
父が持っていた丸山応挙の軸が一万円の値で売れた、それを元手に春日の元に身を寄せる。
春日は、詐欺師というウラの顔を持っていた。仲間は個性的な面々で、表立っては皆修理工だった。
春日に打ち明けて、必要な資金を提供して灘尾破滅作戦が始まる。

声帯模写のミミック、情報屋のインテリ、結婚詐欺師のジゴロ、事務と料理担当の智恵。個性的な人物が活躍する。
仲間の特技を生かし、大掛かりな仕掛けで灘尾をはめることになる。

財閥の中でも末席にいる灘尾はどうにかして政府と手を結び,関西の大手財閥にのし上がりたいと思っている。
電気事業で、新しい開発をし、軍需面で遅れている政府に繋がり、受注を受けて事業を成功させたいと思っている。
そこを狙って春日達が動く。

いくら緻密に計画しても偶然の隙は出来る。予想しなかった出来事にも出会う。
計画が成功するかどうか、実行間際のスリルは、読んでいても緊張した。
最初から、寺を離れるところから、すでになにか仕掛けが有ったらしい、話の展開も予想しなかっただけに、終わりの部分では思わず手を打った。

ストーリーの進行だけに終わらない味付けがまたいい。乱歩賞作家はこういう気楽な作品も書くのだな。

なんだか「スティング」を思い出したが、あの名画にも負けていないかも(小粒だけれど喜んで読んだばかりなので甘い)


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