そこはもう荷物を出した後のがらんとした最後の一夜の部屋で、非日常の見慣れない夜である。
その上、ふたりの間柄を知ると、男女の微妙な心理が、思い切り不思議な雰囲気を醸し出していく。
事件にふれる過去の風景に徐々に迫っていく心理は、恩田さんらしく息が詰まるようだが。
ストーリーを追うものにとっては、事件そのものは少し底が浅く、途中までは退屈する。
事件と書いたが事故死で処理された出来事に、二人が深くかかわっていることが少しづつ明らかになっていく。
二人が山歩きのガイドに選んだ男が崖で足を滑らせて死んだ。偶然男は二人の父親で、この二人は双子だった。血縁の二人が成人してめぐり逢い同居を始める。
と書いたが ネタばれにはならない。これから続く話の進め方は技巧的でそれが恩田的にうまい。
次第に心の奥に芽生える微妙な心理、他人だと割り切れない感情が生まれる。
これを形を変えた悲恋と読むのは現代的ではない。昔の道徳観や倫理観に縛られた時代ではないと思うこともできるが、やはりこの二人は、別れることに何か心残りがある。
ブーン、と音がして台所の換気扇が回り始めた。
毎日聞いていたはずの音が、やけにうるさく、大きく感じられる。
少しずつ空気が入れ替わっていくのと同時に、二人の歳月が薄まっていくような気がした。明日、この部屋は無人になり、また新しい誰かが入る。ここで僕たちが過ごした時間は、もうどこにも存在しない
その上複雑な家族関係が影を落としている。
というストーリーで、恩田さんがこの話を思いついて書こうとした気持ちがよくわかる。
この設定で、ここまで読み進められる技術に引きずられて、やっと読了した。
でもありそうな話が次々に重なって、いびつな家族の形の中で育った二人の関係が、徐々に明らかになっていく。
それもあまり目新しいものではないが。
殺人か、人為的な事故か、少しの謎が隠されているがそれも動機としては浅い。
読むのをやめようとして、それでも読んでしまった。
最後まで謎解きが残るし。
あれこれといいながら、やはり筆の運びに引き摺られたられたようで。こういう謎解きや、二人の男女の禁断?の恋愛に近い感情を醸し出している作品は、人気があっても不思議ではない。
爽やかな印象を受ける題名は作者も気に入ったのか、結末の部分で、幻想的な木漏れ日の風景が爽やかな別れを演出している。
ただ面白かったのかどうかおかしなレビューになったが、いまいち感のある話で残念だった。
書店を歩いていると恩田さんの作品は題名に惹かれて買ってしまう。