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チップス先生、さようなら



ジェイムズヒルトン

イギリスの裕福な家庭の子供たちが通う歴史の古いパブリックスクールで、先生を務め終え退職後も母校の隣に住んでいたチップス先生の回想録。

最近文庫でもページ数の多いものに疲れてきたので、この100ページちょっとの本ならすぐに読めるかなと思って。

先生は、次々に卒業していく子供たちには、真面目で平凡な紳士と思われていたが、授業は後々まで語られるくらい冗談交じりの愉快なものだった。

独身者の寮に、退職まで長く住んでいたが、若い頃に一度結婚したことがあった。山で知り合った、キャサリン・ブリジスという女性で、この明るく聡明で、美しい人はすぐにみんなの人気者になった。
彼女の影響でチップス先生も注目され、彼の生活は輝いていた。
しかし三年後、子供を出産するというときに、親子ともに亡くなってしまった。
先生は一度に無くした家族のために打ちのめされた。

時がたち、チップス先生は想う。
細々と、まあなんと沢山の出来事が、過去に深く埋めてしまわれたことだろう。

先生は色々な出来事を思い出しながら、学校から聞こえる子供の声や、鐘の合図を聞き、運動会やスポーツの対抗戦の見物をして、たまに子供たちが訪ねてくるとお茶をご馳走する。
そして、今でもその子供たちの父親のそのまた父親の子供の頃の話をしてみんなを笑わせ、穏やか日々を過ごしている。

ガズオ・イシグロの「日の名残り」を思い出す。長く執事を務めたあと、思い出の女性を訪ねてみようと思いつく、そんな男性の心情が胸に残る小説だが、この本も同じく、静かなユーモアの中にイギリスの歴史が篭っているような、余韻のあるいい本だった。

訳が読みづらかった。言葉遣いも変わってきてはいるだろう。もう少しこなれた訳だったら、面白さももっと感じられたかもしれない。

映画化されてアカデミー賞主演男優賞を受賞したのは、チップス先生を演じたピーター・オトゥールだったそうだ、悲しいような、時にはキラキラ輝くような眼をするオトゥール、なんだかチップス先生は彼のような人物かもしれない、と思った。


お気に入り度:★★★★☆
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