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櫛挽道守



木内昇

初めて読んだ。作者は女性だった。 お登勢という女性の生き方が主なストーリーになっている。

 中仙道、木曽の山中にある藪原宿の集落が舞台。名人といわれる櫛挽職人の父を持つお登瀬の、櫛作りにかけた一途な半生が感動的に描かれている。

女の人生が、より不自由に決められ、それに縛られていた幕末の頃、世間並みの生き方を捨ててでも、尊敬する父親の背を見つつ、櫛引の技を極めるために生きていくお登瀬の成長物語になっている。

頼みの弟が早逝し、家族の絆が破綻してくる。そんな中でお登瀬は年頃になって、世話人が持ってきた条件のいい結婚も断り、周囲の人々から阻害され始める。

無骨な父親に弟子入りを志願してきた若者とともに、家業を継いで、櫛挽きの技を受け継いでいく。
激動の時代を背景に、人の往来からわずかな文化が入り込んでくるような集落で、村の行事や風物を織りこみ、お登瀬の人生が、爽やかに力強く描かれている。

自分で作った物語を絵にしてひそかに売っていた弟。
窮屈な暮らしから逃げ出したが、やはり逃げ切れなかった妹、
名人の技を慕ってきた弟子、出自を嫌って動いていく時代に飲み込まれた弟の幼馴染。

登場人物も夫々面白くお登瀬に絡んでいく。
   
読みやすいが力のこもった作品だった。

指宿にはよく知られた薩摩ツゲがあるとガイドさんが言っていたのを思い出した。女の子が生まれると桐の木を植えると聞いたことがあるが、長い髪をすいていた頃は、櫛は目が細かいほどよかったのだろう。子供の頃、祖母の櫛箱の中にあったのを見たことがある。

第9回中央公論文芸賞、第27回柴田錬三郎賞、第8回親鸞賞受賞作
 


お気に入り度:★★★★★
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