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漢和辞典的に申しますと。



円満字二郎

言葉や文字って面白い。故事来歴はもっと面白い。漢字に限って言えば、じっと眺めていて想像します。この漢字はこういう感じかしら。いやいやそんなことよりもっと深いものでした。

まず目次から 

1 食べる漢字と飲む漢字
2 体育会系の漢字たち
3 漢字で見る夢のいろいろ
4 理数の国の漢字たち
5 漢和辞典的人生訓
6 ニュースの漢字、気になる漢字
7 季節はめぐり、漢字はうつろう
8 漢和辞典編集者の悩み

私は子供の頃祖父母がいた山の中で育ちましたので、年上の叔父たちの教科書や読み古した本や、屋根裏にある、枚数が少し足りなくなって散らかった百人一首の札、古くなった雑誌や本を読んでいました。雑誌の漢字にはたいていルビが振ってありましたので、小学生になって田舎を出ても、あまり読みには困らなかったと思います。漢字テストでも覚えたものに合わないものは形から答えが判ることもありました。それも時が過ぎて霞んできていますが(-_-;)
そんなこともあって、今でも漢字が好きなのですが、この本にはまったく見たことのない形や、別の読みや意味があってさすがに言語学者の研究成果、辞典編集に長く携わっている方の知識はなんて面白いものか、この本は何度読んでも飽きることがありません。

少しご紹介します
《回》魯迅の痛烈なインテリ批判
魯迅の「孔乙己」という短編から。孔乙己(コンイーチー)は頭がいいと自惚れていたが官僚試験に受からず今では酒浸り。ウイキョウ豆のウイの字はどう書く?子供が答えると、じゃ「回」の字は?4通りの書き方ができるか。
漢和辞典にあるのは3コ、残りは「康煕字典」から「□」の中に「目」と書いた文字が載っています。ただ魯迅はこの小説で細かい知識はあっても生活能力はからっきしないそんなインテリを批判したかっただけなのでしょうか。
確かに、細かすぎる漢字の知識をいくら持っていても実生活では何の役にもたちませんものねぇ……。
(これはこれから読むこの本を書かれた円満字さんの謙遜だと思いますが(^▽^))

《幽》太宰治「斜陽」の稀有な世界。
スープを飲んでいた「おかあさま」が、「あ。」と「幽かな叫び声をお挙げになった」
「かすか」とは“あるかないかわからないくらい”という意味。
今では「微か」と書くのが普通ですが、「幽」は紀元前1300年ぐらいに使われていた漢字の祖先「甲骨文字」ではもともと“火”に関係のある漢字で“明かりが薄暗くてよく見えない”という意味なのです。また「幽」には“存在しているかどうか怪しい”というイメージがあります。
実際「斜陽」の「お母さま」もすぐさま「何事もなかったように」スープを飲み続けます、叫び声など、挙げなかったように。
「幽」のイメージを踏まえて読むとなかなか印象的な感じの使い方ですよね。

《愁》樋口一葉の孤独
「愁」は「うれい」とよみます。「郷愁」「旅愁」いかにもさみしげな気配が漂ってきます。
ところで樋口一葉は、この漢字を独特な意味合いで使います。たとえば「私は何(ど)んな愁(つ)らきことありとも、必ず辛抱しとげて、一人前の男になり」『にごりえ』
「ひとには左(さ)もなきに我ばかり愁(つ)らき所為(しうち)をみせ」『たけくらべ』
一葉は愁を憂いと読むことを知らなかったわけではありません。「つらい」と読ませる方が圧倒的に多い、のは確かです。「つらい」を「辛い」と書き表すこともありません。
だれかと「つらさ」を分かち合う。「つらさ」にはそんな側面もあるはずです。一葉は、それを知らずに逝ってしまったのでしょうか……。

《髭》二葉亭四迷の使い分け
二葉亭四迷には言文一致の小説「浮雲」があります。
物語は、お役人さんが、仕事を終えてぞろぞろ出てくる場面から始まります。当時の成人男性は髭を生やしているのが定番。
「口髭、頬髯、あごの鬚、暴に興起(おや)した拿破崙(ナポレオン)髭に狆の口めいた瓦斯馬克(ビスマルク)髭、そのほか矮鶏髭、貉髭、ありやなしやの幻の鬚」
「髭」は唇の上 「髯」は頬、「鬚」はあごから垂れたひげ。使い方はお見事。こう分けてしまうのももろ刃の剣、ひげはつながっているが、二葉先生の割り切り方も必要かも。

と、中から作家関係の項目を選んでみました。

目次に沿った様々な漢字の成り立ちや、生生流転(?)の様子まで。
遠い時代に生まれて伝わった漢字の流れや、それぞれに刻んできた歴史、変化を繰り返した時代の不思議が詰まった面白い短編集のようでした。

項目の後にちょっとしたコラムなのですが

画数の一番多い漢字は 
「龍」を四つ組み合わせて「テツ」と読みます。ほかにも凄い字が。それが中国では今も使われているなんて!

画数の一番少ない漢字は
一番長い読み方をする漢字は
一番読み方の数が多い漢字は
漢字の数が一番多い読み方は
漢字の数が一番多い部首は
漢字の数が一番少ない部首は

という本で新年を楽しみました。


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