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猫舌男爵



皆川博子

図書館で背表紙を見ていたのに見当たらない、移動したのかとあわてて聞いてみると別の版があるという。予約して取り寄せますね、と親切な言葉の前ではこれで8冊目にもなるけど…とも言えなくなってついに対面。

まず“戦慄”から

祖父がもだえ苦しんで亡くなった姿を見て、父が研究を極め発明した、安楽死用のガラス容器は、ちょうど父の臨終に間に合った。脳にヒーリング音楽が流れるように改造し耳の下にエラを付けて溶液を満たしたガラス瓶に入れた。体に管を刺して栄養を補給し。排せつも管につないで使用人が46時中世話をした(ぁぁ気味悪い戦慄)

めでたく器官が休止し、死亡した後は尊厳のため外部から隠す黒い液体と交換して細胞をすべて溶かした(鳥肌)高価な装置で財産がある名家故に出来ることだった。

語り手は常に兄とともにいる妹で、彼女も衰弱して装置に入る。しかしここからがますます奇怪な仕掛けがあり、登場する病院の廃屋や地下に住む侏儒とともに戦慄の度合いはMAXになる。そうなのか、そう来たか あの作品の影もうかがえる、夏向きの薄気味悪さが体にも充満する。そのものズバリの水葬楽。

 

次は“爆笑、大爆“幻惑・戦慄・爆笑”、それぞれにつかまった感じはこの世のものから分かれて一時異界に漂う気分だった。

笑”風船ならきっとここで割れる 

ロシアの学生が日本語のゼミで、ハリガヴォ・ナミコの本を読み、好奇心から日本語訳を試みた。初めての翻訳本である。題名は 

猫舌男爵    (猫舌男爵 ネコシタダンシャク)

ゲイシャの娘  (沼太夫 ヌマフトシオット)

鶴が飛来した! (鶴屋南北奇譚 ツルヤミナミキタシタン) 

この読みでもすでに笑い袋の口が開く。 

翻訳のきっかけは“THE NOTEBOOK OF KOGA’S  NIMPO”の映語版を読んだからで、これはヤマダ・フタロのニンジャ本だった。彼は様々にこの本について研究考察する。ニンポからトッコーの死生観、さらに虚無感についてこの本からはそう爽快感を持ち面白すぎてほかのお本まで読んでしまう。彼の滑り出したのはいささか斜め後だったり斜め前であったりするが、古書店には初めて目にする作品が並んでいて、シガナオヤの「セイベとヒョウタン」があり「ヒョウタン」についてはなぜ尻を磨くのに情熱を傾けるのかと問いかけている、そしてニンポのヒョウタン戦術が彼流だとまさにウロロジーに行きつく解釈で、このあたり私は皆川さんの世界を泳ぎきるには笑い過ぎて息が続くかと怪しくなる。

猫舌男爵の不可解な点から、棘のある清純な乙女を責めるという話だったがこれは控えることにしたらしい、また熱いものが苦手なのを猫舌というがそれは怪しい、飼っているカメも犬も熱いものには横を向く。

日本語の奇怪さには迷う、男爵は貴族、クゲらしいこの一人称はマロである。

日本語は率直に行動することを、短いナイフをまっすぐに突きいれる、と表現する(ことなみ、ナルホド)正しくは短いでなく、単刀直入であったが。

また僕は短気なので“To bed or not to bed”などと悩まず率直な心は常にTo bedであるが、。日本人は何事にも逆の表現をする。

「ゲイシャの娘」では、こなるすき先生の家庭にさざ波を立てる、先生は日本留学中に𠮷原見学に行ったのだ。愛妻には知られたくなかった。

「鶴屋南北奇譚」の翻訳は先生から訂正が入る。先生もなかなか方向がつかめないながら深い意味を穿つ。ここでも爆笑。

 

その一方山田風太郎ファンから喜びの手紙も来る、くのいちは9分の1ではなく、くの一 すなわち女ニンジャのことですなどと教えられ、忍法帳を二冊贈られる。 

日下三蔵氏と千街晶之氏の往復書簡で、針ケ尾奈美子の行方が分かる、彼女は隠退先の病院で大みそかに消失していた。露と消えたのだ。本名は不明でペンネームだったが、望み通り露と消えたのだろう。彼女の露化死にはいささか疑問は残るが。 

白玉か何ぞと人の問ひしとき露と答へて消なましものを(備忘用註 ことなみ) 

それにしてもこの「猫舌男爵」の面白さは手に取って文字を追っていくしかない。

終始皆川さんの爆発的ユーモアに揺られ続けて気持ち良く終盤までついていく。 

「オムレツ少年の儀式」 

「睡蓮」も 面白過ぎたが、特に「睡蓮」の絵のモデルになった女性の人生を振り返りつつ、絵が辿った運命や画家を目指した少女時だの思い出など、ミステリ仕立てではあるが、おもしろい。 

「太陽馬」珍しい構成で戦中のドイツを背景に大部の小説を読むような趣があるが、中でも「睡る沼」という家系が指に張った糸「指弦」を鳴らして言葉の代わりにする。様々な材料で作った擬指を奏で意思を伝え合う、「睡る沼」の部分は特に異彩を放って印象的だった。


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