「ミレニアム」で難しかったVの多い名前と、登場人物も多くて頭も目もぐるぐる(笑)
しかしそんなことは二の次で、面白かった。慣れれば一気読みで、解決したときはほっとした。
倒叙型ミステリというのか、はじめの方で犯人がわかる。それを追い詰めるヴァランダーが率いるイースタの警察官チーム、事件が大きくなるにつれ、近隣から応援が来る。
読み始めて少しすると、全貌はこうでないかと予想が付く。
その上で、捜査の過程や、心理上の葛藤が興味をひく、文章も静かで、残忍なシーンもあるが、緊迫した場面でも静かに深く引き込まれた。
ドミニカ共和国にドロレス・マリアという娘がいた。話はここから始まる。
6月の終わり、ヴァランダー警部は、やっと暖かくなったスウェーデンの季節を楽しんでいた。夏休みには恋人と旅行する計画だった。
そこに通報があり、出かけた先は農地一面に菜の花が咲いていた、その中で、ガソリンをかぶって少女が自殺していた。
しばらくして、以前、法務大臣だった人物が鉈で背骨を切りつけられ即死、頭の皮をはがされていた。
次に裕福な画商がパーティの途中に、東屋で頭をまっぷたつに切られ頭の皮をはがされていた。
次に、駅前の工事中の穴から、目を焼かれやはり斧で切られた死体が出た。
暫くして、不審なペーパー取引で話題になり、その後も犯罪の臭いがしていた会計士が殺された。
連続する殺人事件を捜査する警察官は泥のように疲れた体を動かして事件を追っていた、
一方犯人は、特異な儀式のように、綿密な計画でことを成功させてきた。
ヴァランダー警部は発病した父を見舞うことも、夏休みの旅行の期限が迫ることも、菜の花の中で残酷な自死を遂げた少女のことも心から離れない。
捜査官にも個人的な生活があり、性格も違っている。読むうちのそれも事件捜査に深くかかわりつつ、メンバーにもなじんで行く。
指揮を任されたヴァランダー警部は、心の奥深くに自分でも立ち入りたくない思いを抱えている。それがいつの間にか、犯人に向かう捜査線からはずれ「目くらましの道」に踏み入っていたのではないか、と解決した後で自戒することになる。何かと悩む性格だ。
ホラーチックなサスペンスであり、捜査官たちの群像劇でもある。
スウェーデンの変りつつある世相を背景に、穏やかだった昔と違って現代の殺伐な事件を嘆く、ヴァランダー警部の心が迫ってくる、犯人の側から見れば、動機など、殺人の理由もなぜかうら悲しい小説でもある。