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笑う男



ヘニング・マンケル

今回は悩み男のヴァランダーが無茶振りでアクションを演じます。てこずった割りに敵はあっさり片がつきますが、まぁイースタ署員の仕事ぶりが面白いし、こういうのもありにします。

シリーズ4作目だけれど、一作目から順不同に読んできたので、残念なことにどうして彼が悩んでいるのかが分からなかった(笑)シリーズというのは話も繋がっていることを改めて確認したが、こういうところは我ながら困ったことだ。

イ-スタ署のヴァランダー警部は、冒頭から正当防衛で射殺した事件で悩んでいる。休暇を勧められて転地しても効果がなく、うつ状態は深まるばかり。
そこに友人の弁護士が尋ねてくる、父親が交通事故で死んだが、腑に落ちないので調べて欲しいと言う。ヴァランダーは警官を辞めようかと思っているときであり、珍しく断ってしまった。
帰宅して読んだ新聞で、その友人が殺された記事を見る。

彼は負い目を感じ、責任感も手伝ってやっと前向きに立ち上がれそうな予感がする。
重い腰を上げて署に復帰、早速父親の事故から調べ始める。
暫く空けていた署内は、新人のアン=ブリッド=フーグルンドが配属されていた。女刑事というのが気に入らなかったが、頭も切れ、その上美しい彼女は、戦力になりそうな有望株だと思えた。

友人の秘書の庭に地雷が埋められたり、自分の車にも爆破装置を仕込まれたが幸いにも生き延びる。
一方では県庁の会計捜査官が自殺をする。ことは重なるものだ。

姿を見せない富豪の城主がいる、次々に起きる事件を繋いでるかのようで、ヴァランダーは何か常に気にかかっている。彼は5年前に郊外の城を買って住み始めた。県内あちこちの施設に高額の寄付をし、研究費を補助し、尊敬されている人物だった。

ヴァランダーは挨拶目的で彼に会いに行く。城はセキュリティーでがっちり固められていた。
非常に紳士的で隙のない男だったが、顔に笑みを張り付かせた様子はなにか無理があるような、笑顔の裏には冷酷さも見えてそれがひっかかった。いつものようにピンときたのだ。

しかし彼だとしても事件の根拠がわからない。調べてみる価値はある、と思うが…… ヴァランダーは働き詰めの同僚を思ってまた惑う、方向を誤ってはいないだろうか。

なすすべも無く、時間が過ぎた。

署長のビュルクは相変わらず事なかれ主義で、長いものには弱腰である。しかし鑑識のニーベリやオーケソン検事に励まされ、同僚も休み返上で動く。ヴァランダーは少しずつ前進する。

ハーデルベリ(城主)に関する情報を確認する捜査に一週間かかった。その間、ヴァランダーもほかの者たちも、平均して5時間も眠らなかった、あとで彼らはその一週間を振り返って、必要とあれば自分たちも高度の捜査能力を(随分無茶をして法を破ってはいるけれど)発揮することが出来ると実感したのだった。

オーケソン検事は言う「この捜査法は時が来たら、警察本庁と法務省がイースタモデルという名で一般に公開することになるだろう」 「私の云っているのは、警察本庁のお偉方の捜査会議のことだ。また政治家のまか不思議な世界のことだ。大勢が集まって御託をならべて<アリを篩にかけ、ラクダを飲み込む>ようなことばかりしているではないか。彼らは実際の仕事をしないで毎晩就寝時に明朝目が覚めたら水がワインに変わっていますようにと祈っているようなものだ」

今回は、完璧に武装した城の中に潜入して調べたいという焦りと、若くして成功した世界的な事業主の闇を暴こうとする執念が、非力なヴァランダーの支えになってパワー全開で猛進する。

事件捜査がハードなら、ソフト面では、ヴァランダーの家庭や親子のつながりなどに紙数を費やしている、彼の人柄を浮き彫りにして親しみを持たせる。事件を追いつつ、同僚や上司の人物の描写も多い。このあたりがヘニング・マンケルの読者サービスでほっとするところ。

「何かおかしい」というヴァランダーの天性の勘と経験に裏打ちされた警官の心が、物語を牽引する。いつものように。

格好のいい警官ではない、逆に悩みも多く、たまにはそれに負けて逃げようとする、そんな身近な人となりが、可愛らしい。

11月初めに起きたこの事件は社会的にも複雑な背景を持っていたが、クリスマス前にやっと目処がつき片付く。

最後、ダイハードもどきのヴァランダーの活躍にはビックリした。やれば出来るのだな!だから☆4のおまけ。


お気に入り度:★★★★☆
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