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第2図書係補佐 (幻冬舎よしもと文庫)



又吉直樹

膨大な本読みだという又吉さんが、47冊の本との出会いを日常生活に絡めてエッセイ風に紹介している。又吉研究をしてみたいと思っていたのでいい手引書になった。

又吉さんの「花火」が気になっていたが、チャンスがなくまだ読んでいなかった。
図書館の2月の読書会でちょうど課題図書になった。

これで読めると思ったが、どうも感想が書きにくい。300万部に迫る発行部数で、話題の書だったからか、それでもまだ肝心の作者又吉さんという人をよく知らなかったからか。

いつもの好奇心で調べると、膨大な本を読んでいる芸人さんだそうだ。
少し前、本屋さんに行くと帯に印刷された顔があちこちからじっとこちらを見ていた。
その時は「サキ短編集」を買ってきたがそこにも帯から又吉さんがこちらをみて推薦の言葉が書いてあった。

図書館の読書会では、嬉しいことに課題の本に関連した本がたくさん並べて紹介される。
「花火」の感想は少し置いておく積もりで「第二図書係補佐」からかりて読んでみました。

ここには、小学校から読書を始めて、芸人の修行時代から現在まで読んできた本の中から、よしもとが持っている劇場で発行しているフリーペーパーに書いた、本の紹介をした中から、抜粋したものでした。
又吉さんの読書傾向を知るために最初に読んだのは、又吉研究にはいい思いつきでした。

本の紹介の前に、自分自身の当時の生活を書いたエッセイ風のものがあり、それに絡めたように本の紹介があります。

売れないで、生活に窮し、暗いトンネルにいるような毎日が薄暗い筆致で描かれています。自伝風な過去の出来事もあります。

やんちゃで明るい少年時代から、今感じるようなどうも暮らし下手で人に会うのもあまり得意でなさそうな人柄になっていった訳も何か思い当たるような、どちらかといえば暗めの心理描写の多い本が紹介されているようでした。

文芸作家ということなので、好きな作家はそういったジャンルが多いのは当然でしょうが、雑食の私が読んだものと相当被っているところがあって、少し驚きました。
多分、古今東西の名著から流行り本まで読んで選んであるのでしょうから、少しくらい被っていてもおかしくはないのですが、それでも同じ本を読んで、ここに揚げてあるのは嬉しいことでした。

47冊の中で読んだものをあげると。

「夫婦善哉」「万延元年のフットボール」「赤目四十八滝心中未遂」「何もかも憂鬱な夜に」「月の砂漠をさばさばと」「巷説百物語」「告白」「江戸川乱歩傑作選」「螢川・泥の河」「中陰の花」「イニシェーション・ラブ」「山月記」「コインロッカー・ベイビーズ」「銃」「杳子」「「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」「人間失格」「変身」「夜は短し歩けよ乙女」「異邦人」「深い河」「キッチン」
およそ半分かな。忘れかけているものが多いけれど。
ちょっと気があうかもしれない。

という余談は置いておいて

最後の中村文則さんとの対談が特に面白かった。
二人のキャラクターが少し違うように思ったが、勝手な思い込みで、お互い旧知の間柄で話が合うようだ。
私は中村文則さんのものを何冊か読んでちょっとファンのつもりでいるので「おお 又吉さんも仲間かも」と思った。

興味深い言葉を中村さんがいっていた。

純文学ってものをたくさん読んだ人っていうのは、自分の内面に自然と海みたいなものが出来上がるんです。で、作家になるとかお笑い芸人になるとか、もちろんそれ以外のいろんな職業も人たちにとっても、非常に素晴らしいものなんですよ。つまりいろんな角度から物事を考えるようになる。例えば、ちょっと難しいけど ”ポリフォニー” というのがあって多声性って書くんだけれど…..又吉くんはたくさんの本を読んでいて海みたいなものが出来上がっていて、もともと持っている才能が表に出る際その海を通過しているように思うんです…意識してないかもしれないけど通過することによってああいう一風変わったものが生まれてくるんじゃないかなと僕は勝手に思ったんです。

中村さんの言葉はいい。本を読み始めて心の底がジンワリ湿ってくるようなら読書が好きになる。そして少しづつ海のようなものができてくる。その海には人によって色も深さも違っているかもしれないが、できれば私の海も、柔らかな感性を持った静かなみぎわに、思慮深い智慧と円満な人柄が少しばかり溶け込むようであってほしいなと思った。今はまだ方向も距離も程遠い位置にいるけれど。
中村さんと又吉さんの対談は、読む際の参考になる面白い話だった。


お気に入り度:★★★★☆
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