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翳りゆく夏



赤井三尋

20年前の誘拐事件で死亡した犯人の娘を入社させたい。けりのついた事件だが、再調査せよ。

大手の東西新聞に抜群の成績で入社が内定したのは、誘拐犯の娘だった。
が、週刊誌にスクープされ人事局が揺れる。社長は「矍鑠」という字が書けた優秀な成績にこだわる。
面接でも感じがよかった。ただ……

この内定した娘(比呂子)が非常にユニークで、叔父夫婦に引き取られ不幸の影もなくすくすくと育っている、多少天然ボケの性格も愛嬌で。
優秀な成績にも拘わらず人柄もいい。幹部たちは何とかして入社させて育ててみたい。人事局長、人事課長、果ては社長まで口説きに加わる。

葉山にいる社主から事件の調査命令が出る。喜んでお受けします、というところ。
20年前の事件捜査は、閑職にいる梶に任される。できる彼が編集資料室という窓際に追いやられたのは、過去にあった部下の勇み足が原因だった。責任を感じた部下が自殺した。彼は辞表を書いたが引き留められて今の職にいる。そこで再調査の命が下る。

資料室は時間に縛られず、仕事はやり甲斐がないといえばいえるが、この命には都合のいい部署で動きやすい。

20年前の事件は、現金の引き渡し場所で歩道橋の上から札束を撒くという犯人の指示で現場が混乱し、犯人を逃がしその上誘拐された男の子はついに見つからなかった。
だが逃走したクラウンを見つけて追跡中に、運転を誤った車が崖から落ちて大破、犯人は死んだ。

犯人は製薬会社のプロパーだった、病院関係者をはじめ周辺の人々を調べはじめる。なぜ犯人は逃走経路が判りやすい、すぐに発見されるような道を選んで戻ってきたのか。子供はどこにいるのか。

病院から男の嬰児を抱いて出て行く女の姿が目撃されていた。その子の両親はいまだに子供部屋で、死んだ子供の幻を育て続けていた。

内定者をスクープをした週刊誌の編集長は業界を渡り歩いた曲者だった。裏で株の取引もやっていたらしい。何か匂う。梶はこの線を追うことにした。

調べるにつれあちこちにつながる細い糸が見え始める。

内定を受けた犯人の娘(比呂子)は入社を断ってきた。

そして意外なところから、当時の嬰児の消息が知れる。そして、子供を失った親たちの異常な愛情が現れてくる。

「月と詐欺師」が面白かったので、赤井さんの江戸川乱歩賞受賞作を読んだ。あっさりわかりやすくて読みやすく、エンタメ全開作品でコリがほぐれた。誘拐の身代金の受け渡しも、歩道橋から札を撒くというのは、この手は今更ながらと思いつつ、面白かった。

後日談も少しあるが、比呂子は結局入社したのだろう。
得意の語学を生かして外国で特派員になっていて好感が持てた、だがもう一人の子供の将来はどうなったのだろうか。

よくできた比呂子のキャラクタ―がもう少し活躍すれば面白かったが残念。今ならスピンオフ作品にでもなるところだが、見当たらなかった。


お気に入り度:★★★★☆
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