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花の下にて春死なむ



北森鴻

外を見ると梅が咲いてきたし桜のつぼみも少し膨らんできた。
俳句仲間がさしておいた一輪の小さいつぼみが、主がなくなったときに開いていた。胸にしみるような短編集だった。

日本推理作家協会賞 連作短編部門受賞作

「花の下にて春死なむ」
俳句仲間の片岡草魚がなくなった。身寄りがないことがわかり、グループで葬儀は済ませた。が、菩提寺に葬ろうとした時、彼には本籍地もないことがわかる。

一度だけ部屋に呼んだことがある飯島七緒は、俳句や日記を手がかりに、草魚の故郷を探しに出かける。

孤独な部屋で草魚が亡くなったときに咲いていた一輪挿しの桜を「奇跡の花」と呼んで、まだ雪が残っている長い冬だったが、ときならず開いたことを伝えた新聞記事。これにまつわる話も挿入されている。
受賞作にたがわないとても密度の濃い短編。

「家族写真」
駅に設置されている貸し借り自由な本棚の、人気がありそうな時代小説それぞれに、家族写真がはさんであったそうで、ちょっとした町のこぼれ話風のコラムに載っていたという。
行きつけの三軒茶屋駅近くの「香菜里屋」は落ち着いた雰囲気とおいしい料理、マスターが出すぎず控えすぎず、必要な場面では推理が冴えていて結論の方向を指す。
たまたま店に来た客の話で、この写真を手がかりに過去も含めた客の物語が解決する。

「終いの棲み家」
多摩川河畔の写真を撮っていたカメラマンが、草の中に老夫婦の小屋を見つける。彼らは世間から離れたこの小屋でひっそりと暮らしていた。この夫婦を組み写真にしてカメラマンが開いた個展のポスターがことごとく盗まれた。

親しくなった奥さんからもらった「芥子漬け」が手がかりになって事件は解決する、心温まるいい話で、中に出てくるモトクロスグループのヘッドが、一味利いている。

「殺人者の赤い手」
子供たちに流行っている、赤い手の怪人の話にまつわる事件の解決まで、さまざまな人物が面白い役目で登場する、なるほどと納得の一編。

「七皿は多すぎる」
仲間の東山が、回転寿司屋で鮪ばかり7皿食べる男の話をする。
結論は出ないままに、クイズ風に解くもの、暗号からとくものなど意見は展開する

「魚の交わり」
1話につながる話。
後日談だが、これが解決編で、納得できる結末になっている。

どれも気の利いた挿話や謎解きがメインだが、人の交わりが簡潔で情緒もあり、「香菜里屋」のマスターもいい。
山頭火を参考にしたと言う自由律の俳句が面白い。
北森さんの作品を読んだのはこれだけなのでまた機会があればほかのものも読んでみたい。


お気に入り度:★★★★★
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