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片眼の猿―One-eyed monkeys



道尾秀介

面白い。一休みの時はこんな読みやすく面白いものがいい。でもやはり道尾作品、あなどれない。

細かく文字の詰まった分厚い本を読んでいて疲れたので、ぱらぱらとめくってこの本に換えた。
最近の文庫は、以前のものに比べて1ページは二、三行少ない、一行の文字数も、二、三文字減っている。その分文字が大きくなって紙も少し厚めでページも少なく、気楽で読みやすい。
買うには躊躇するが読むときには、気分転換になっていい。

本代を、乏しい小遣いから捻出していた子供時代は、文字がぎっしり詰まっていて出来れば2段組で分厚いものが嬉しかった。
重いので転がっては読めない、机に座って支えがあって読めるようなものがよかった。
今はこのように会話も一行になっていると、ますます嬉しくなる。
これなら読み終わるのもすぐだろう、中身は読んでみてから、道尾作品はあまりはずれが無かったし。

主人公の三梨幸一郎は、遠くの音を聞き分ける才能を生かして、探偵業をしているが、それで住んでいるローズ・フラットの家賃は払えるし部下を一人雇うくらいの収入はある。
通りがかりに聞こえてきた話から、電車の中で不審な行動をする女に目をつけて部下に加える。
彼女は悪徳だという評判の興信所に勤めていた。実入りのいい裏の仕事を捨てて、なぜかあっさり承諾して仲間になった。

三梨は一年同居した秋絵が、7年前に自殺したことが心の傷になっている。
採用した女は冬絵といった、名前を見ても縁があったのかもしれないと三梨は思った。
引き受けた仕事は、依頼主は大手楽器屋の会長で、競争相手がどうも新製品のデザインを盗んでいるらしい、という調査依頼だった。成功報酬も高い。

夜、人気の無い時間に聞き耳を立てながら冬絵を忍び込ませて証拠を探すが、手がかりが無い。しかしそのあとすぐ、足音がして建物の中で殺人があったような物音と声を聞く。
通報で殺人が見つかり、警察が捜査を始める。三梨はその隙を狙って証拠集めをするが、いろいろと不審な出来事に当たる。
冬絵はなぜ二つ返事で承知したのか

三梨は忍び込んだ楽器屋のビルで経営者のヤクザたちに暴行を受けた。
瀕死状態のとき、ローズ・フラットの住人が駆けつけてくる。中には地下のスナック「地下の耳」のマスターまでいた。
瀕死に見えたが、マスターからもらった人形が三梨を助け、三梨はそれでも壁際にあったデータサーバーを持って、一行はほうほうの体で退散する。

このデータがさまざまな疑問に答えてくれる。
だがそれだけではなかった。

読み始めは、道尾さんも読みやすいライトな作家だったのかな、と思いながら小見出しの3くらいまで読んだ。
止めないでよかった、そこからが加速度的に面白くなった。

そして急転直下、命拾いをするところから、ローズ・フラットの住人(お爺さん、お婆さん、神様に脳をいじられた青年、特徴のある双子、過去が暗いらしいマスター、気のいい部下)のいわくのある話が、それまでの小出しにされた筋書きにつながり、冬絵のことまでうまく収まる。作者は準備怠り無かった、書き出しまで解決する。

意識的なぼかしや消化不良になりそうな部分もあるが、この本は、読む前にネタばれの感想文は読まないほうがいいと思う。
冬絵さんについてはもう少し意外性もあっていいのではないかと思うが。犯人当てのミステリではなく、ストーリに巻きこまれて、流されて、ミスリードまでされそうになって(されてしまって)、ついに本音が聞けると思えば、理屈ではないところが面白い。技あり!。

読みやすく面白く次にとりかかる元気が出た。。


お気に入り度:★★★☆☆
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