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つむじ風食堂と僕



吉田篤弘

今年も「評」というよりストーリー紹介で、てにをはや文脈の飛び跳ねた悪文で参加させていただきます。よろしくお願い致します。

電車で二駅のところは月舟町で、リツ君とそこにある「つむじ風食堂」にいって来ました

新しい年にふさわしい本でした。人々の暖かさと一緒に12歳になる主人公のリツ君が、私にもあった昔を思い出させてくれました。

市電に乗れるようになったリツ君は、二駅先にある月舟町の桜川商店街の角にある「つむじかぜ食堂」に来る人たちの話で成長していきます。そこは十字路の角なので、時々つむじ風が吹いて白い暖簾が巻き上がって揺れています。

昔からあるレトロな商店街に、懐かしさを覚えながら、私の子供時代にあった駅の踏切の両側に延びていた商店街を思い出しました。

リツ君だって過去の時代はあった、ぼくの「むかし」だ。生きていれば将来があることも知っている。それは少し不安でさびしい。

ここに来る人は近所で商売をしている人が多い。それで「商売はおもしろい?」と訊いてみる。

リツ君の家はサンドイッチ屋で「トロワ」という。お父さんが三度目の転職で落ち着いたからそんな名前になっている。
お父さんのおかげで「転職」や「失業」、「ニート」「フリーター」「リストラ」という言葉を覚え何処となく、将来が不安になってきた。

質問に答えてくれる人たちは自分の商売を愛していて、楽しそうで、前向きで、「いいだろう、凄いんだぜ」と言う人もいる。
でもリツ君は12歳で、将来にかすかな不安を感じている、マダマダ知らない世界が多すぎて迷っている。
そんなリツ君に自分を重ねていとおしくなる。将来大人になっても、分からないことばかりでますます不安になることも多いよ、なんてことを言って怖がらすのはやめておこう。

リツ君は「つむじかぜ食堂」で暖かい人たちの輪に恵まれている。いまは何かモヤモヤして、かたちにならないものを抱えているかもしれないけれど、いつか遠い先になって、それが何かの形になっているかもしれない。

私の商店街はもうない。大きくて広い道にお店が並んで何でも揃ったあの店も、空き地もなくなって、お風呂屋もなくなって、小さな店の呼び込みのかけ声が響いていた市場もない。

そのころなにかもやもやを、抱えていただろうか、リツ君を見ていると子供の世界を置いてきたような気がする。


お気に入り度:★★★★☆
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