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ひとがた流し



北村薫

人の過去は影のようにうっすらと流れに記憶されて過ぎていく。さきちゃんとお母さんの昔も。

これが「月の砂漠をさばさばと」の続編だと知らなかった。NHKでドラマになっていたのも知らなかった。
読むに連れてあのほのぼのとした母と娘の暮らしを思い出した。あ~いい本だったな。
この本は作者と題名が気になったので手に取った。流れると言う言葉に少し拘って、というより生きていくことは言葉にすればそういうことだと日ごろから思っているし。
「ひとがた流し」いい題名だと思った。

今度はお母さんの牧子さんと二人の親友の話になる。

メインは、独身のままアラフォーを迎えている千波。二人からは「トムさん」と呼ばれている。
駆け出しの報道時代を経て念願のメインキャスターの席を得た。そこで悪性の腫瘍が見つかる(胸の悪い病気と書いてある)

もう一人美々は子連れで離婚、今は写真家と結婚している。結婚したときはまだ物心ついていなかった子供は実の父親だと思っている。この親子関係が実に温かく、高校生になった娘が父の写真を理解して同じ目で写真を写し始めている。このあたり、優しさとともに、実子でない親子にある現実が少し重荷であって、どう解決しようかというあたり、心温まる結末がジンとくる。

サバの味噌煮を作りながら歌っていたお母さんの牧子さんと、大学受験前になったさきちゃん、時間は流れ、それぞれ三組の家庭の話も、友人たちのあたたかいふれあいの中で時が過ぎている。

千波は局で知り合った後輩のイチョーヤさん(君)と最後の時間をすごすことになる、このあたりは出来すぎかもしれないが、事実は小説よりも奇なり。そういうこともありかもしれず。大きな試練を越える千波に最後の贈り物は哀しくて美しい。

そんな、目の前の現実の厳しさを描いているが、何か救いのある、時間の流れも包み込むようないい本だった。


お気に入り度:★★★★☆
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