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パウル・ツェラン詩文集



パウルツェラン

詩になった戦争の傷は、まだ生々しい。災厄は次第に遠くなるはずが、文字の中では常に今でも、呼びかけが続いている。

石原吉郎さんの詩を初めて読んだとき(全詩集でなく、どこかに発表されていた詩か代表作集)シベリアに強制収容されていてその上強制労働につかされ帰還した方だと知った。
並んでドイツの詩人、パウル・ツェランが語られることがあるということだったが、そういうことをいつどうして知ったかも覚えがなかった。(詩集は今までどんな巡り会わせか読む機会が多い)

別な本を読もうとして、そこにパウル・ツェランの詩の一節が引用されていた。それで読む前の参考にとこの詩集を読んでみた。
全詩集ではなく代表作を集めたものだった。、特に、その特徴は、思いがけない災厄に出合ったこの詩人の作品のなかから、東日本大震災で被害にあった方たちの心に響く作品が選ばれたという編者の言葉が書いてあった。
パウル・ツェランがユダヤ人で、ナチスに両親が殺され、自分も強制労働につかされた、悲惨な過去が詩の底にあること、そういったものを集めてこの詩文集が編まれたそうだ。

パウル・ツェランの詩は日本の戦後詩に当たる時期に書かれたといえる。
パウル・ツェランも言葉をメタファーとして多用する詩人であり、言葉にどういうイメージが含まれているか、詩の中に詩人は何を現したかったのか、あるいは訴え、表現したものは何だったのか。表現は豊かで、読んでいるうちに深く打たれるものがある。

パウル・ツェランの詩はその技法に慣れて読んでいると、奥深く潜んでいる原体験、非常に深い傷跡が痛い、
詩篇は不思議なリズム感があるが、悲しみと、それとともに両親への追悼の心が、悲しい響きを伝えてくる。
読むうちに、破綻のない詩の形に偉大な詩人が死を見据えた生の声を聞くことができる。

解説は後部に、一編ずつつに対してつけられ、詩文集は彼の少ない講演の記録や文章を集めている。
パウル・ツェラン初心者にも分かりやすくありがたい。

代表作「罌栗と記憶」の中の「詩のフーガ」が冒頭にあるが、
それではなく、趣旨に沿って

「ひとつのどよめき」を

ひとつのどよめきーーー いま
真実そのものが、
人間どもの中に
歩みいった、
暗喩(メタファ)たちのふぶきの
さなかに

訳者解説

「暗喩たち」というのは、詩の代名詞と考えていい。詩について喋々喃々している間に「どよめき」が(災厄)が持ち上がった。

石原吉郎さんの詩も(手持ちの名詩集から)

泣きたいやつ

おれよりも泣きたいやつが
おれのなかにいて
自分の足首を自分の手で
しっかりつかまえて
はなさないのだ
おれより泣きたいやつが
おれのなかにいて
涙をこぼすのは
いつもおれだ

以下略


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