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ラスト・チャイルド



ジョン・ハート

粘り強く少年ジョニーは何処までやれるか。母と妹のために。

早川文庫創立65周年ハヤカワ文庫40周年記念作品
英国推理作家協会賞受賞

「川は静かに流れ」を読んでジョン・ハートの描き出す風景が好きになった、一作目の「キングの死」を探したが見つからないのでこの本を買ってきた。
最近は面白い本にたくさん出会うことができて嬉しい。

ジョニーは一年前に誘拐された双子の妹を探し出せば、昔の穏やかで明るい家庭が戻ってくると信じていた。父は妹を迎えに行くのが遅れたため誘拐されたのだと母に責められ、家を出て行方がわからなくなった。

母はしばらくして薬と酒におぼれるようになり、町の有力者で財産もある男がつきまといだす。
やがて生活費も尽きたころ、彼は母子を持ち家に住まわせて暴力を振るうようになった、母は忘我状態で耐えていた。

ハント刑事はこの事件の担当だった。ジョニー一家の幸せな時代を知っていた。その母の輝くような美しい笑顔に憧れていて、それが一年前の不幸の後、繊細な面影を残しながらも荒れていくのを心を痛めながら見ていた。
彼は周りがいうように私情は挟んではいないといいながらも、母と子に何くれとなく世話を焼きながら、誘拐事件を解決しようとした。

ジョニーは親友のジャックと一緒に自分なりの方法で調べ続けていた。
小児性愛者で前科のある者やその傾向のある者に目星をつけてリストを作り危険な区域にも足を踏み入れていた。

そして一年後の夏、ジャックと二人で川のほとりで遊んでいた時、そばの橋で事故が起き、つぶされた男が落ちてきた。彼にはまだ息があって、「連れ去られたあの子を見つけた」といった、それは妹のことにちがいない、しかしその時はそれを聞いただけで、恐ろしさに逃げ出してしまった。

少女がまた誘拐された。
ジョニーがリストにのせて何度も見張っていた家だったが、出て来た男に見つかってしまい、襲われる。
13歳の彼は小柄だったし、男には力があった。もみ合っているときに背後から銃声がして男は死ぬ。銃を撃ったのは、誘拐されて手錠のまま逃げ出した少女だった。しかし安心はできなかった、ジョニーは共犯らしい男が何度もその小屋のような家に出入りするのを見ていた。

この事件はマスコミを騒がせ、男の家の背後に誘拐したらしい子供が埋められている場所も判明する、しかしその中に妹はいなかった。
優秀な検視医の観察もあって徐々に事件は明らかになっていく。

悲惨な話の中の少年と友人の強い友情。刑事やその家庭に潜んでいる影。
それが明らかになるにつれジョニーの家族の運命も深い淵から浮かび上がる。

アメリカの庶民の生活、貧困から生まれる犯罪、そして平凡な家庭に及ぶ歪んだ現実は、ミステリの格好のテーマになっている。ボストンを舞台にした「ミスティックリヴァー」のような名作も多い。
一方ジョン・ハートは、情感あふれる筆致で人物や情景の中から、犯罪が生まれて来る様子を書いている。
これは、人生の崩壊と再生の物語で、ミステリの中からその一端が、のぞいている。

「川は静かに流れ」から入ったハートの世界だが、そこにもちろん事件は起きる、それがアメリカの陰であり、その描き方すべてに似た視線が見られても、彼の持つ文章の流れるさまにのるのは気持がいい。
「川は静かに流れ」の感想は残していない、狭い社会から逃げて、友人の電話で窮屈な故郷に帰ってきた男、しかしストーリーと彼に割り切れないものを感じ、再読しそれを掘り起こす前に、デビュー作の「キングの死」を読んでから考えようとそのままになってしまった。

大男の黒人は神秘的でS・キングの「グリーンマイル」を髣髴とさせ、川のある風景はクックの叙情的な舞台を連想させる。私のミステリ、まず一番はクック(特に記憶シリーズ)かもしれないとまだクック好きは冷めないが。ハートにも甘いかもしれない、これも面白かった。大正解!!(とハートの前に喜んで自分を誉める 汗)


お気に入り度:★★★★☆
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