サイトをSSL化しました。セキュリティアップ!

一瞬の光



白石一文

大手企業の出世頭として嘱望されていた橋田浩介は、派閥抗争に破れた。それはトップに君臨して会社を牽引していた人物の裏切りだった。

彼の手腕を認めた反対派の誘いがあったが、彼はそれまでの闘志も意欲も失ってしまっていた。

面接官として出会いバーで二度目の出会いをした香折が、男に絡まれていたのを助けたことでかかわりが出来る。

辞表を出した後も、複雑な生い立ちをした香折が気にかかり、何かと面倒を見る羽目になる。

浩介には上司の縁続きの女として完璧な彼女、瑠衣がいた。人が振り返る美しさと聡明さを持ち絶品の料理まで作る。ひたすら愛し続けてくれるが、孤独で人生をすでに投げたような香折が常に気になっていた。

彼は、辞表を出した後でも、理想的な家庭を築けそうな瑠衣との人生を選べば、浩介に着いてくると瑠衣はいっていた。
瑠衣は純粋な愛情を浩介にぶつけてくる。

対岸には親と兄からDVをうけ続け、欝に悩み、今でもおびえて暮らす香折が常に心にある、女として愛しているのではない、瑠衣を置いてでも香折には手を差し伸べねばと男の本能が言う。

エリートとして嘱望された地位が揺らぎ、会社経営の暗部を見てしまった、確かに社会組織にいると明るい面は少ない、彼はそれを順調な波に乗って、是として飲み込んできたが、わが身に及んだ深い人間不信の感情は、拠って立ってきた大きな柱を微塵に砕くものだった。

生活はそう純粋な温室で育つようなものではない、濁った水に揉まれていると、澄んだ流れに出会うこともあるし、会わないこともある。そんな典型的な話だった。

読者としては単純に、孤独な戦いをしてきた浩介には、瑠衣という贈り物をささげたくなる。
一方香折は兄に襲われ人事不省から回復しても意識がいつ戻るかわからない。
非の打ち所のない瑠衣と傷だらけの香折、どちらに寄り添って生きるか。

これは、一人の男の決別と出会いを書いた、白石という作家が初めて世に出た作品だった。

社内の抗争、政治がらみで経営の深部までの話は浩介の立場を現すものだろうが、絵のような出来事にはもう驚かない。

白石さんの作品はこれまで読んでなかったが、ファンだという人の強いお勧めで読んでみた。読みやすくあっけなかった。
都会のサラリーマン、それも野心も実力もあるという主人公の挫折は少し綺麗すぎるが、これも作家の持ち味なのだろう。浩介の決断に作者の書く姿勢が見える。


お気に入り度:★★★☆☆
掲載日: