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夏草の記憶



トマス・H.クック

熱く濃密な夏、息苦しい草いきれの中で、純な少女が死んだ。

高校時代の初恋の思い出である。医師になって同じ町に住み続けるベン(優等生というだけで、内向的な少年であった主人公)と美しい転校生の少女との思い出話、という一般的な組み立てで、とくに目新しいものではない。

しかしこのわずか一年は彼の回想の中で、過去もっとも暗い記憶であると始まる。
このむせるような夏草の描写の中でも一層息苦しく暗い話である。

美しく純真で一途な少女だったケリー・トロイは夏草の茂る丘で死んだ。
山間の小さな町で起きた殺人事件である。

ベンは親友のルークとともに当時を思い出してはなぜ?という質問に答えられないでいる。
なぜあの聡明なケリー・トロイは死ななくてはならなかったのだろう。
そして、ベンの想い出は意外な真相に辿り着く。

「緋色の記憶」と同じ高校生時代の話である。クックのこの物語の形は、これも同じように進行する。高校生時代の微妙な心理、通過点にあるこんな時代の繊細な迷いの多い心理がやがて事件に発展する。
奥深くから隠された悪意が現れるとき。

読み返すといたるところにヒントらしいものがある、それと知らずに風景や人々の心情などに引き込まれて、つい謎解きを忘れてしまう。

犯人当てが好きでその手には乗らないつもりで読み始めるのが普通のミステリとは一味違っていて、最後は思いがけない展開でクックの手の中に落ちそうになる。


お気に入り度:★★★★☆
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