豊田徹也
日常生活を淡々と描いている、そこにある激しく噴き出すものが徐々に鎮まっていく。その時間が苦しく切ない。
表紙が美しい。こうして横たわっていられるのは、すでにあらわれた出来事を超えて、激しさなどない世界に住み始めているのだろう。
生活をこなしていくには、時間の起伏を渡っていかないといけない。
夫が突然いなくなっても、急にあらわれて消える男も、一時の流れにしかならない。
何もしないわけではない。夫はなぜどこに消えたのだろう、と思いながら生きている。
謎が解けてみれば、わがままであっても自分勝手であっても、人はただ一日一日を積み重ねて生きていかなくてはならない。
言葉や行為が人を傷つけたり、救ったりしながらでも。
そうして生きることが、庶民の暮らしだと語っている。
心を傷つけあったり、気持ちの騒ぎを抑えて、憎んだり許しあう、はた目から見ればさほどでもない、ありきたりの出来事が、胸に残るようなしっかりとした、静かな筆致で進んでいく、繊細な物語にひかれた。
題名もいい。
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