読み終わってから、側の積読の山を捜したら、また買った本の中から同じ文庫が出てきた。以前読んだことなどは全く覚えてなかったので、最後まで再読とは気がつかないでとても面白かった。損したような得した気分だけど。 続いて「氷の家」も「鉄の枷」も出て来た。読んだというだけで全く覚えていない、再読してもいいが、こんなに忘れるとは困ったこと。面倒でもこうして書いておこうと改めて思う。今年はもうひと月過ぎたし、早めに予定本に入れておこう。
フリーライターのロザリンド(ロズ)・リーはエージェントから、売れそうな本を書かないと契約を切ることになる、と言われた。
気にいらない仕事だったが、与えられた課題の「彫刻家」と呼ばれる囚人に面会に行く。
28歳になった囚人(オリ-ヴ・マーチン)は、異常に肥満した身体を大儀そうに面会室に運んできた。彼女の落ち着いた物腰と犯した異常な形の犯罪はロズに心底恐怖感を与えるほどのものだった。
6年前に母親と妹を殺し、死体を切り刻んでまたもとの形に並べたという凶悪ともいえる犯罪だったが、裁判で上告せず、精神分析も受けず、判決通りの終身刑で服役中だった。
彼女はそれまで面会者を拒み続けていたが、なぜかロズには会う。
そしてロズは、彼女の異常な体形と緩慢な動作で話す言葉から、明晰な頭脳を感じ、現状をはっきりと認識し事件を明確に分析できる能力があるのではないかと感じる。
オリーブの妹は恵まれた容姿で回りに可愛がられ、オリーブは彼女の庇護者として、厳しい母の教育から守ってきた。外では可愛く振る舞い家に帰れば狂ったように我侭であった妹を、世間からも守ってきたことが分かってくる。彼女はロズに少しづつ心を開いてくる。
思いがけないことに、オリーブには妊娠した過去があり子供は中絶されていた。
ロズは、面会の数が増えるにつれ、ますますオリーブの犯罪に疑問を深めていく。
凄惨な犯罪から始まるこの本も、手強かった。半分読んでも事件の全容と行く先がわからなかった。
まずオリーブは精神異常者か。世間の評判どおり虚言癖があるのか、彼女の話にはどの程度の真実があるのか。
過去の調査に漏れはないのか。第一発見者の警官ハルはオリーブと犯罪を調べたうえで、彼女を少しは理解しようとしたのか
なぜ父は事件の家に住み続けていたが、わずかな間に死んだのか。
ブーデゥーじみた彼女の行為はオカルティスムに関係するのか。
作者の仕掛けは女性らしく多少のロマンスの味付けと、情感豊かな文章、情景描写の巧みさは、過剰に見えても、読みやすい点で許される。
ミステリというジャンルにはこういう物語も十分入るに違いない。形式通りに出来上がった秀逸なミステリの次には、何かソフトな作品を読んでもいい。面白い作品で一気に読めて最後まで飽きなかった。