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幸福な朝食



乃南アサ

美しさに恵まれた女の話。平凡に育てばこんな壊れ方をしなかっただろう。

平成8年に文庫になっているが、その年に直木賞を受賞しているので、その関係でデビュー作が文庫になったのだろう。
その後の乃南さんの作品はどれも余り外れがなく面白い。
これは題名もあまりどぎつくなく読みやすかった。

沼田志穂子は美しいといわれ、自分でも容貌には十分自信を持っていた。将来は女優になると言い切り、高校卒業と同時に上京して劇団に入った。
ところが運の悪いことに、彼女にそっくりな柳沢マリ子という女優が一年先にデビューしてしまっていた。
志穂子のスタートはマリ子のそっくりさんから始まり、何をしてもどこに行ってもマリ子の影から出ることは出来なかった。
プライドを捨てず、マリ子に負けたくないと言う信念で、次々に劇団を代わり、チャンスを探すが、彼女に機会は巡ってこなかった。

30半ばになり、業界で暮らしているうちに何人かの男とも付き合ってきたが、今はマリオネットを操る人形使いになっていた。
人形遣いとして経験も積み、腕は認められてきたが、やはり夢は捨てきれないでいた。

その頃、彼女に憧れる後輩の弓子と、6畳と小さな台所のあるアパートに住んでいた、貧しい暮らしの中で、家事が不得手な志穂子は、献身的な弓子の手料理をさほどありがたくも感じないでいた。

志穂子が付き合っていた男の子供を妊娠した弓子に激怒して、アパートを飛び出し、帰ってくると由美子が出血し、その血の海の中で死んでいるのに気がついた。
志穂子はまた一人になった。人を寄せ付けない雰囲気はますます硬くなり年相応な僅かな衰えが見え始める。そこにまた彼女にあこがれる広美が現れる。

志穂子は編成替えで新しい人形劇が始まることを知る、主役の人形遣いになるためにディレクターと関係を持ち採用される。
そして、彼女の使う人形のアテレコをする新進俳優、良助と知り合う。

良助が大物女優になったマリ子に近づいてくるのを知り、ある計画を思いつく。
清純派女優として守られたきたマリ子を引き下ろす志穂子の計画は成功して、新進俳優だった良助にはチャンスがきた。
だが志穂子に運が向いて来る訳もなく、良助にも疎まれるようになる。

良助は健康的な広美に惹かれ、二人で結婚の約束をする。

志穂子は仕事は続けているものの、精神が壊れていく。

弓子のように子供を生みたい……。
そして彼女は妊娠する。

部屋は子供を迎える準備が始まり、すっかりカラフルな幼児部屋に変身する。
子供が生まれる前に仕事の整理をし、仲間に妊娠を告げて祝福され、幸せだった。
元来食の細かった志穂子は料理もし、よく食べて、育児書を読みお腹の子に話しかけ、ミカという人形と出産の日を待っていた。
一方、父親は自分ではないだろうか。
付き合いのあった男たちは穏やかではない。

良助と飲んでいて、マリ子は志穂子の姦計にはまったことに気がつく。ついに良助もマリ子にひざまずき取りすがり真相を話してしまう。

しかし、そのころ、いつものように志穂子はお腹の子と、戻ってくる弓子を待っていた。

デビュー作だが面白い。さすがに女性の心理が人間臭く、うまく書かれている。
志穂子は容貌に恵まれただけに、いつまでも夢を捨てきれない気持ちがいつか、歪んでいく。
うまくいけば、いろいろな要素が絡んでいるので飛び切りの作品になっていた。でも残念ながら、シーンの切り替えが説明不足で、志穂子の心の揺れに緊迫感が足りない。
壊れていく心の流れが後半はメインになり、その原因も理由もわかるし面白いが、読むとなると少し物足りない。
なぜか肝心の部分が薄味で、残念だった。サイコっぽい。ホラーかな、とどちらとも言えない味があるが。
と言いながらも、この作品ストーリーは面白いので読んでよかったとは思う。


お気に入り度:★★★☆☆
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