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心に龍をちりばめて



白石一文

表紙がとても爽やかで美しい、小川のせせらぎと両岸に咲き乱れるクレソン(おらんだからし)の白い花。
何か、この物語を象徴しているようだ。

フードライターとして成功している美穂は美貌と知性をもち、理想的なエリート記者丈二と婚約もしていた。だが丈二は政界に出馬するという野心があり、美穂は将来に不安を感じる。彼の家族、特に母親には軋轢も感じていた。

故郷に帰ったとき、偶然幼馴染の優司に再会する。彼は弟がおぼれそうなところを救ってくれたことがあった。子供のころ「俺はお前のためならいつでも死んでやる」といってくれた優司は、ヤクザ時代に彫った大きな昇り龍の刺青を背負っていた。
美穂は次第に優司に惹かれていく。

先に読んだ「一瞬の光」は嘱望された、将来に向けて開けた生き方を捨て、完璧な恋人も捨てて、悲惨な経験から昏睡状態になっている若い女性の傍で暮らすことを選択した男の物語だった。

今回は過去に傷のある男を選んだ女の話だった。言い換えればどちらも純愛小説で、読者を喜ばせる設定が揃っている、男は男らしく頼りがいがあり見かけがいい。女は振り返るような美人だが、本人はそれが自身の美点だとは思っていない謙虚さがある。
出逢った、今で言う「運命の人」に一途に思いを寄せ、困難を覚悟で人生をかける。勇気のある選択は読後感もいい。

ただ何か美しすぎて眩しい、川の向こうの現実感のない世界を見たようだった。


お気に入り度:★★★★☆
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