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新訳 説経節



伊藤比呂美

説経節の「小栗判官」を備忘録に。

伊藤比呂美さんの詩作品は、昔の詩誌で読んだことがある。性にまつわる言葉が力強く直説的にまた喩として埋め尽くされた詩で、生きる力が迫ってくる力作だった。
自分とはちょっと方向が違うかなと思い、その後すっかり離れてしまっていたが、時が過ぎた今「説経節」で再会した。
直接説経節を聞いたことがある世代、それに近い自分が今出会っていることを不思議に感じた、というより伊藤比呂美さんの名前を訳者に見た時は少し意外に感じた。

でも、若かった伊藤さんが、ここまでに味わった歳月を、説経節の中の男と女という形で自分に引き寄せている。それが詩の中にどんな形で描かれているのか近作は読んでいないが、個人の生活を開けてみせるようなその後の作品で、こういう生き方をしてきた人なのかと知った。

詩人、小説家エッセイストの伊藤さんが、言葉やストーリーに大きな関心を寄せる意味が少しわかり、内面から見た女を外から見た作品として、こういう形に結実していることを興味深く読んだ。
ここまでの生活はどういう形であっても、説経節三作を選んで、読みやすい現代語に訳し、その思いを登場人物に込めて自分の時間にも対比させているところに、自分自身も過去の時間を振り返り、お互い女として共通する思いが深かった。

説経節は巷を流れながら、結果的には庶民に仏の教えをとき、それを信じることで救われるという話が多く、わかりやすく物語にして節を付けて詠う、「説経節」の「キョウ」が「教える」という文字でないところがよくわかる。

私が育った河内にもその跡はのこっている。それは河内節・鉄砲節になって今も継がれてきているが、一世代前の人たちは辻々で語る鉄砲光三郎の河内音頭や鉄砲節で「河内十人斬り」を聞いたということだ。そういう事件があったことを初めて知った。
話がそれたが。
よく知られた説経節の「小栗判官」について簡単に。

☆小栗判官
 美濃の国安八郡(岐阜県)に鞍馬の毘沙門天に願かけて生まれた男の子は位も高く、その上美しく賢く育った。八幡の八幡様で元服し常陸小栗と名を改めた。だがなかなか妻が決まらない、21歳までに迎えて返した数が72人になった。

鞍馬に参って気に入るような妻を得よう。折よくそこで出会って手に入れた美しい姫は、深泥が池の大蛇だった。人々の噂にのぼりはじめ 常陸(茨城県)に追放される。そこで薬売りの後藤左衛門の紹介で照手姫を知る。

小栗はすっかり魂を奪われ恋文を出す。判じ物のような内容だったが非常に美しい文字だった。照手姫の下に通い始めたのだが、許しもなくということで、照手の父横山殿は大いに立腹、三男の三郎の悪知恵で国を与える祝い酒と称して酒に毒を入れた。姫も罰しなければ片手落ちと、牢船に乗せ念仏を唱えて相模川に流した。

姫の背後で千手観音が守り難を避けて情け深い男に助けられたが、妻の悪智慧で売られてしまう。下女の仕事をするがここでも千手観音の助けで生き延びている。

小栗は閻魔大王の一言で娑婆にもどれたが、三年の時がたっていたので、当時の身体は崩れて亡者のように見えた。その体に心は蘇ったが、歩けず目も見えず「餓鬼阿弥陀仏」という名をつけられ土車に乗せられた。

そこに立ち寄ったお上人が胸を見ると、熊野の湯に入れてやってくださいという閻魔様の札が下がっていた。
美濃の宿についた。そこからは様々な人に曳かれていくのですが、売られて流れて行った姫がそれを見た。誰ともわからない姿を憐れんで引いていくことにした。
「この者を一引けば、千僧供養、この者を二引けば万僧供養」と胸札に書いてあった。

姫は小栗なら引いただろうとしぶる長にから暇をもらって曳いていく。長にもらった暇もなくなり姫は泣く泣く引き返す。そこに修行の山伏が熊野まで引いていき湯に入れると元の小栗に返った。

そこに熊野権現が現れて二本の杖を買う。
小栗は館に帰るとその身なりを見て一度は追い払われたが、母と再会する。このうわさを聞いた帝から美濃の国を賜り、長の下にいき下女になっていた照手姫にも会い、常陸の国に帰る。
そこで長者として栄え、八十三歳で大往生を遂げた。

あらあらおめでとうございます。

この話は詳しい部分をすっかり忘れていたので簡単に残すことにしたが、熊野までの道中が地名を入れて節をつけて語られている。中に仏の教えや、徳行や善行を織り込み、時代を経るごとに次々に話を膨らませ、面白おかしく語っていった様子がわかる。これが説経節かとその面白さが少しわかった。

他に
 ☆しんとく丸
 ☆山椒大夫  が入っている。
 
しんとく丸と山椒大夫は、あらすじをおぼえているし、映画も見たので改めてほかの作品で読み直すことにした。

伊藤比呂美さんはあとがきで新訳を手掛けたいきさつにも触れていて、まず説経節にちなんだ詩を書き、その後訳を続けていて、池澤夏樹さん編集の「日本文学全集」に現代語訳を依頼されたそうだ。
説経節のリズム感や長い時代にわたって受け継がれてきた語りが読んでいても面白かった、あとがきを読んだだけでも知らないものも多くあって、今でも残っていることが興味をそそられる。


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