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特捜部Q―吊された少女―



ユッシエーズラ・オールスン

ボーンホルム警察の警官から捜査依頼の電話がかかってきた。それを断ったばかりに……。

シリーズ6作目、これで既刊は全部読んだ。まだ解決してない事件があるし、アサドの過去も少しずつしか明らかになってない。
レビューを書いていない読了本を横目に見ながら、気になって仕方がないので読み始めてしまった。

映画化されているというので、ビデオを借りに行った。(これも気になって最優先で)1話の 一檻の中の女一 が目当てだったが全部貸し出し中で、二話の 一キジ殺し一 しかなかった。
貸し出して残ってないと言うのはQのファンが多いのかなと密かに嬉しかったが、
「ミレニアム」のスタッフ製作ということで、隣り合うスエーデンとデンマーク、作品は同じ様な色調で海や森の匂いがした。
映画になるとやはり「ミレニアム臭」というのか、原作にあるチームの雰囲気作りは、猟奇的で、グロテスクで、暴力的なシーンが多い、Qってそうだった?
まぁ 原作もそういったことを抜きにしては語れないような犯罪がテーマなので、ストーリーを損なってはいないが、読むときよりも映像で見ると生々しい。
映像から受けたショックが大きく見たのは失敗だったかななどと考えてしまった。映画の出来は悪くなく面白かったが、それでも改めて心地よい文字の世界を見直した。
ただ漠然と想像していた、カール・マーク、アサド、ローセが実体として動き、見る目的はそれでよかったかな、俳優とはいえアサドは、削ったような細身で謎な雰囲気のアラブ人で、ラクダの例えを出すにもぴったりな人だった。

今回は観光客もよく訪れるという、風光明媚で史跡も多いボーンホルム島が舞台だった。
山道で美しい少女が木から逆さ吊りになった形で死んでいた。

事件は20年近く前で、地元警察でもすでに捜査の手は離れていた。
カールのところにボーンホルム警察の警官から電話がかかる。「私が捜査してきた件をぜひ特捜部Qに引き継いで欲しい」そういってきた警官ハーバーザードは、マークに断られ、退官式当日に職場の上司やわずかな列席者の前で拳銃自殺をした。彼は今までコツコツと調べていて、すんだ事件にしたい仲間から爪弾きにされていた。

「放って置くのですか」腰の重いカールをいつものようにアサドとローセが立ち上がらせる。
未解決事件を扱う特捜部Qは、常に過去に遡ってわずかな手がかりから出発しなくてはならない。推理して、調べて動かぬ証拠を見つけ出さないといけない。だが調べる価値があるのだろうか。
「警官が命をかけたんですよ」

まず自殺した警官が集めに集めたガラクタやメモの箱を地下室まで運び入れる、地下にある特捜部Qの部屋に入れてみると身動きがとれないくらいの量があった。
しかし、アサドとローセ、それに押し付けられた形でQにきた新米のゴードンの手で、殺された少女とその頃関わりがあった人たちなどが次第に浮き彫りになって来る。だが時間がたっている、少年は大人になり。大人は初老になり、手掛かりは消えかかっていた。

これはひき逃げ事件だった。そうとなれば誰が犯人でどういう経緯だったか。カールは少女殺人事件と決まり俄然やる気が出てきた。「罪もない少女を無残に吊るしたのは誰だ」
そして、複雑な背後に群がる人々の中に入っていく。

当時、フォルケフォイスコーレという成人教育機関に少女は入っていた。同窓生、岬に固まっていた反戦ヒッピーたち、ヒーリング団体から一種の宗教団体になった一団とその教祖。自殺した警官の息子と一時付き合っていた男性などが浮かんでくる。睡眠療法の医者もいたらしい。カールとアサドは新興宗教の教義を知るために天文学者の話を聞く。この説は読んでいてもとても興味深い。

その話では、古代から全ての宗教の始まりは太陽と天のめぐりだということだった、そこになんらかの手がかりは無いか。

一人の男が浮かぶ、今は教祖になり自然と一体になれば平和で安らかな境地に達することが出来るというので、瞑想と祈りを日々実践する団体を作っている。死んだ少女と関わりもあった若い頃は、ハンサムで目に強い魅力があり女に不自由しなかった。
捜査はこの男性を目指して進んでいく。証拠はないもののカールは過去に何らかの繋がりがあると感じ、行方を捜し求める。
今や教団はヨーロッパでも信者を増やし続けていた。名もそれらしく変え、彼は世界の宗教を一つにしたいと大望を抱いていた。
彼の現在の名前がやっと分かる、しかし事件は複雑に絡んで、カールとアサドは命をかけて縺れを解こうとする。

新興宗教が、それなりに古代の信仰といかに結びついているか、人間の生命が宇宙のめぐりにどんなに関わりがあるか、複雑さはハンパではない。
学者に教わり、医師に訊き、Qの三人は睡眠療法の患者になり三日ほど後まで宙にさまようような副作用に悩まされたりする。
ここにきてまた作品は社会に関わる現代生活を描いてきている。
多くを占める作者の宗教についての語りを読むことは、ミステリの要素として深い動機を抜きには語れないけれど、宗教活動か、金集めか、1歩間違えば詐欺か、危ない境界で起きた事件は、執拗な調査とチームの活躍で死んだ警官が関わった人々とともに悲劇的に幕を下ろす。

ますます重くて長くなったポケミス620ぺージの終わりに来て、単純そうに見えた事件は、実はねじれにねじれていてカールとアサドを駆け回らせ、やがてこれまでの幕切れのように、2人は負傷しつつ犯人を追い詰める。ねじれて絡んだ人間関係がミソ、終盤の予想外な部分であっと驚く。

アサドのラクダのたとえが、真面目に真剣に思いやりがあるだけに読んだときは噴き出しつつ納得してしまう。
書き出しておこうかと思ったが今回は余り多くて書ききれなくなった。
ユッシ・エーズラ・オールスンさんは、大きな賞を受け、欧米だけでなくアジアでも大ベストセラーになり、勲章もうけたそうだ。お忙しいでしょうが次を早くと待っている。ラクダの数も多ければ多いほどいい。

アサドって何者? 釘打ち機事件は?


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