また「そんな事考えてない」と相手が言うのに対して「無意識の思いが出たのよ」と言い返すこともあるという。
だが意識、無意識とは別に、川上さんの作品は、夢でもうつつでもない世界が共有できる人だけに通じる、情感がある。
その世界では、まるで現実に広がる日常と分かちがたい、境界の見えない時間を、感じることができる。
川上さんの書いている宇宙に、その時々の悲しみや喜びの広がりの中に、誘い込まれていく、それが読書のひと時の快感だと思える。
神様
くまと散歩に出たり、河原の草の上でならんで寝転んで空を見たりした。熊の神様のお恵みが…とくまはいった。
夏休み
梨畑でアルバイトをした。足元に三匹の小さなものが走り回っている。くず梨を与えるとおいしそうに食べた。
花野
事故で死んだ叔父が時々出てくる。話をするが、叔父が思ってもいないことを私が口にすると、影が薄くなって消えて行く。
河童玉
ウテナさんとお寺に精進料理を食べに行った、池から河童が出てきて、恋の悩みの相談を持ちかけた。恋と言うより性の悩みであった。霊験あらたかな河童玉でも効かないという。
クリスマス
ウテナさんが壷をくれた。こすったら「ご主人さまぁ」とコスミスミコさんが出てきた。チジョウノモツレでこうなったんです、と言う。ウテナさんが旅から帰ってきた、クリスマスだから三人で酒を飲んだ、酒がなくなったらコスミスミコさんが壷を逆さにして飲み物を出した。
星の光は昔の光
コスミスミコさんが憂鬱そうで余り出てこなくなったら、となりの部屋のえび君が時々来るようになった。部屋で話したり散歩をしたりした。夜空にホシが出ていた。
「星の光は昔の光なんでしょ。昔の光はあったかいよ、きっと」といって少し泣いた。
「昔の光はあったかいけど、今はもうないものの光でしょ。いくら昔の光が届いてもその光は終わった光なんだ、だからぼく泣いたのさ」しっかりした声で言った。
春立つ
カナエさんというおばあさんの店で酒を飲んで話をする、そこには猫が6匹いる。カナエさんは雪の深いところで若い男に出逢って暮らした話をする。春になっていってみると店が閉まっていて張り紙がしてあった。「……雪の降る途方で、これからの余生を過ごすつもりです。違うように出来るような気になりましたので」
離さない
周りにはエノモトさんが小さな人魚を浴槽で飼っていた。留守にするので預かった。
帰そうということになったが二人ともなかなか帰せない。人魚が「離さない」といった。
草上の昼食
熊が作ったお弁当を持って散歩に出た。熊は料理が上手だった。ワインを飲んで話をした。「故郷に帰るんです」とくまがいった。